蒼の花と荒れる野獣Ⅱ




「葏忢さん…」


「さっきぶりやなぁ。元気そうで何よりや」


「…あたしたちに何をしたか、分かっていて言っているの?」


怒りしか湧いてこない。


佐々木さんをあんな風にして、あたしが怒らないと、思っているの?


「和佳菜、やめとけ」


「報復であろうと、何であろうと、あたしはされたことはきっちり返すから」


「さあ?なんのことかなあ?」


ケラケラと葏忢さんは笑って、知らないふりをする。


そう、ふりを。


「あんた!」


「…和佳菜」


仁が手を掴んで止めているから、黙っていておいてあげるけど。


「…絶対に許さない」


「お前が許そうが、知ったこっちゃないわな」


「頭、もういいじゃないですか。あたしはちゃんと帰ってきました。これで何もかも上手く纏まるでしょう?」


頭を下げる千夏ちゃんに目眩がした。


「…なに、言っているの?」


彼女は笑う。


はかなく、柔らかく。


悲しげに。


「逃げるのはやめたの。ずっとここにいる」


「…なぜ!」


「逃げてちゃ意味ないって、そう思ったの。いずれ終わりが来る。分かってたことだよ」


その終わりを迎えさせない為にあたしがいたのに。


貴女にこんな顔をさせないように、あたしは大阪に来たのに。


「…言ってくれたじゃない。来てくれてよかったって」


「言ったよ。だって千夏が自分と向き合うきっかけが出来たもん」


「だからって」


「だいじょうぶだよ、和佳菜ちゃん」


だいじょうぶな顔なんてしていないじゃない。


今だって泣きそうじゃない。


無理をして笑っていることをあたしが気がつかないって思ったの?


「千夏はだいじょうぶ。だから、」


「そんなこと言わないでよ!自分を犠牲にしてあたしを守りきったとか思っているの?そんなのね、守ったなんて言わないの!あたしと同じよ!独りよがりよ!」


「じゃあ、…どうするの?どうしようもないじゃない。たくさん守ってもらったんだから、千夏だって、千夏だってみんなの為に頑張りたい…」


ぐすんと、泣き声だけがこの部屋にこだます。


葏忢さんはそれを楽しそうに見ていた。


壊れるのが楽しいと言うように、笑っていた。



そんな沈黙を破ったのは。



「ずるいよな。千夏も、お前も」