「葏忢さん…」
「さっきぶりやなぁ。元気そうで何よりや」
「…あたしたちに何をしたか、分かっていて言っているの?」
怒りしか湧いてこない。
佐々木さんをあんな風にして、あたしが怒らないと、思っているの?
「和佳菜、やめとけ」
「報復であろうと、何であろうと、あたしはされたことはきっちり返すから」
「さあ?なんのことかなあ?」
ケラケラと葏忢さんは笑って、知らないふりをする。
そう、ふりを。
「あんた!」
「…和佳菜」
仁が手を掴んで止めているから、黙っていておいてあげるけど。
「…絶対に許さない」
「お前が許そうが、知ったこっちゃないわな」
「頭、もういいじゃないですか。あたしはちゃんと帰ってきました。これで何もかも上手く纏まるでしょう?」
頭を下げる千夏ちゃんに目眩がした。
「…なに、言っているの?」
彼女は笑う。
はかなく、柔らかく。
悲しげに。
「逃げるのはやめたの。ずっとここにいる」
「…なぜ!」
「逃げてちゃ意味ないって、そう思ったの。いずれ終わりが来る。分かってたことだよ」
その終わりを迎えさせない為にあたしがいたのに。
貴女にこんな顔をさせないように、あたしは大阪に来たのに。
「…言ってくれたじゃない。来てくれてよかったって」
「言ったよ。だって千夏が自分と向き合うきっかけが出来たもん」
「だからって」
「だいじょうぶだよ、和佳菜ちゃん」
だいじょうぶな顔なんてしていないじゃない。
今だって泣きそうじゃない。
無理をして笑っていることをあたしが気がつかないって思ったの?
「千夏はだいじょうぶ。だから、」
「そんなこと言わないでよ!自分を犠牲にしてあたしを守りきったとか思っているの?そんなのね、守ったなんて言わないの!あたしと同じよ!独りよがりよ!」
「じゃあ、…どうするの?どうしようもないじゃない。たくさん守ってもらったんだから、千夏だって、千夏だってみんなの為に頑張りたい…」
ぐすんと、泣き声だけがこの部屋にこだます。
葏忢さんはそれを楽しそうに見ていた。
壊れるのが楽しいと言うように、笑っていた。
そんな沈黙を破ったのは。
「ずるいよな。千夏も、お前も」



