コンコン、とノックをしてから。
はあい、と聞き覚えのある声が聞こえた。
…まさか。
あたしの嫌な予感は見事に的中した。
「ご到着なさいました」
それだけ言って、玲は音もなく襖を開けた。
目があったのは。
「千夏、ちゃん」
青い着物を着た千夏ちゃんだった。
周りを見渡すも彼女しかいない。
この部屋には、仁も、葏忢さんもいなかった。
「和佳菜ちゃん、ごめんね。大丈夫だった?」
着物を着て、化粧をして。
とても同い年と見えない優美な千夏ちゃんが、慌てて駆け寄ってくれた。
「あたしは平気」
「あたしは、って言うくらいだから、ほかに被害者出たんだね。状態はどう?多い?酷い?」
ほら、貴女は。
あたし“は”という言葉ひとつで、そこまでわかってしまうの。
さすが、青山で生き続けてきただけある。
「背中に少し怪我をした人がいたひとり、いただけ。命に関わるとか、そのようなことはないから」
そう言えば、そっかあ、と少しだけ彼女がほっと息をついた。
「ここじゃ何も分からないから、知れて良かった」
柔らかく微笑んだ彼女は、それからすっと真剣な顔つきをして。
「和佳菜ちゃん、あたしの為に動いてくれてありがとう」
そう、言った。
「…お礼なんて、言わないで。あたしが勝手にやったことだから」
「ううん。ちゃんと感謝するに決まってるでしょ。貴女はあたしの願いを叶えようとしてくれたんでしょ?」
「でも、結局沢山の人に迷惑をかけてしまって」
「違うでしょ」
その瞳から目が離せない。
「…え?」
「迷惑なんて、かけてないよ。みんなが集まったのは、貴女の力になりたいって思ったからでしょう。それこそ、勝手に彼らがしたことであって、貴女は悪くない。ただ」
言葉をきった、彼女は。
泣きそうな顔をして。
「貴女に、和佳菜ちゃんに、とっても人望がある。それだけのことだよ」
そう、笑った。



