蒼の花と荒れる野獣Ⅱ


コンコン、とノックをしてから。


はあい、と聞き覚えのある声が聞こえた。


…まさか。



あたしの嫌な予感は見事に的中した。



「ご到着なさいました」



それだけ言って、玲は音もなく襖を開けた。



目があったのは。




「千夏、ちゃん」



青い着物を着た千夏ちゃんだった。


周りを見渡すも彼女しかいない。


この部屋には、仁も、葏忢さんもいなかった。


「和佳菜ちゃん、ごめんね。大丈夫だった?」


着物を着て、化粧をして。


とても同い年と見えない優美な千夏ちゃんが、慌てて駆け寄ってくれた。


「あたしは平気」


「あたしは、って言うくらいだから、ほかに被害者出たんだね。状態はどう?多い?酷い?」


ほら、貴女は。


あたし“は”という言葉ひとつで、そこまでわかってしまうの。


さすが、青山で生き続けてきただけある。


「背中に少し怪我をした人がいたひとり、いただけ。命に関わるとか、そのようなことはないから」


そう言えば、そっかあ、と少しだけ彼女がほっと息をついた。


「ここじゃ何も分からないから、知れて良かった」


柔らかく微笑んだ彼女は、それからすっと真剣な顔つきをして。


「和佳菜ちゃん、あたしの為に動いてくれてありがとう」


そう、言った。


「…お礼なんて、言わないで。あたしが勝手にやったことだから」


「ううん。ちゃんと感謝するに決まってるでしょ。貴女はあたしの願いを叶えようとしてくれたんでしょ?」


「でも、結局沢山の人に迷惑をかけてしまって」


「違うでしょ」


その瞳から目が離せない。


「…え?」


「迷惑なんて、かけてないよ。みんなが集まったのは、貴女の力になりたいって思ったからでしょう。それこそ、勝手に彼らがしたことであって、貴女は悪くない。ただ」


言葉をきった、彼女は。


泣きそうな顔をして。



「貴女に、和佳菜ちゃんに、とっても人望がある。それだけのことだよ」




そう、笑った。