「…かな、…和佳菜。和佳菜!」
「…え?」
「どうした、らしくないけど」
ふと顔を上げれば、右には綾、前にはつい数時間前に見た大きな青山組の門がある。
「もう、着いたの?」
「もうじゃない。30分は経ってる。裏路地からここまで遠かったからな。お前がぼけっとしてるからそんな風に思うだけだ、アホ」
「アホは余計よ、綾」
だけど、本当にぼんやりしすぎているようだ。
寝ていたわけでもないのに、タクシー内の記憶がほぼない。
「こっからはちゃんとしてくれよ。あの戦場でぼんやりしてたら殺されるぞ」
「分かっているわよ、行きましょ綾」
インターホンを押すと、見慣れた顔が出てきた。
「和佳菜さん」
「…さっきぶりね」
「どうぞ、お入りください」
にこりとも笑わない玲は、あたしを敵と判断したらしい。
玲が先導して青山の中を移動する。
道が少し違う。
数時間前とは違う部屋のようだ。
一体この屋敷には部屋がいくつあるのだろうか。
「…こちらです」
「ねえ、玲」
頭を下げてから、ノックをしようとした玲に声をかける。
「なんですか」
「…提案があるの」
そう言って笑うと、玲が眉を顰めた。



