蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



どうぞ、と佐々木さんが言えば、失礼します、と聞こえた。



「あら…綾、どうかしたの?」


汗でまみれた顔、息は上がったまま。


乱れた姿で登場した綾は。



「…ひとり、めぼしいやつ捕まえた」


弱々しい声で、だけどしっかりした眼光で、そう言ったのだ。







近くの狭い路地に、その彼は座っていた。


いいえ、座らされていた。


周囲には多くの獅獣と思しきメンバーたちが固まって囲んで、じっと彼1人をみおろしている。


「こんばんは」


そういえば、顔を上げた相手を見て。


「…懐かしい顔ね」


そう呟くしかなかった。



「和佳菜さん、こいつ…!」


「ええ、憶えているわよ。大丈夫、陽太」


ゆっくりそう制すと、きつく睨んだ顔があたしを見つめた。


「…貴方はあたしのことを覚えてる?」


「忘れもしねえよ。あんな屈辱味わったのは、あれ以来ねえからな」


「それはそうね。あたしも憶えているわよ。銀のバイクのお兄さん。名前は確か…」



志田(しだ) 朋也(ともや)だっ!憶えてねえじゃねえか!」



志田 朋也。


1年前、まだ獅獣にあたしがいた頃。


仁に送ってもらった時に〈銀のバイク〉で追い回してきた、Breakの男。


「貴方、Breakに居たんじゃないの?」


「おめえ、知らねえのか?Breakはとっくの前に解散してるわ!」


「ああ、そんなことを南がそうさせたいみたいなことを言っていたけど…」


まさか、本当に解散したなんて。


あたしが獅獣を離れている間に、色々とあったらしい。


「それで、どうしてここに?貴方が間違えていないとは思うけど、ここは関東じゃないわ。関西よ、それも大阪の…青山組の事務所がある所」


「別に?観光に来てただけだ。それなのになんだよお前ら、急に捕まえやがって」


「それはお前が急に逃げるからだろ!」


「そんな大勢で追われたら、逃げるに決まってんだろ!」


腕を掴んで引っ張り上げる陽太に、負けじと言い返す志田。


「なんの観光に来てたの?」


「本当は京都に行くつもりだったんだよ。でも、急に運休になったから、繁華街で時間潰してただけだ」


運休って?と聞けば。


人身事故だって、と志田が答えたので、側にいた陽太を宥めて、調べてもらうと。


「…ニュースになってます」


どうやら事実らしい。