どうぞ、と佐々木さんが言えば、失礼します、と聞こえた。
「あら…綾、どうかしたの?」
汗でまみれた顔、息は上がったまま。
乱れた姿で登場した綾は。
「…ひとり、めぼしいやつ捕まえた」
弱々しい声で、だけどしっかりした眼光で、そう言ったのだ。
近くの狭い路地に、その彼は座っていた。
いいえ、座らされていた。
周囲には多くの獅獣と思しきメンバーたちが固まって囲んで、じっと彼1人をみおろしている。
「こんばんは」
そういえば、顔を上げた相手を見て。
「…懐かしい顔ね」
そう呟くしかなかった。
「和佳菜さん、こいつ…!」
「ええ、憶えているわよ。大丈夫、陽太」
ゆっくりそう制すと、きつく睨んだ顔があたしを見つめた。
「…貴方はあたしのことを覚えてる?」
「忘れもしねえよ。あんな屈辱味わったのは、あれ以来ねえからな」
「それはそうね。あたしも憶えているわよ。銀のバイクのお兄さん。名前は確か…」
「志田 朋也だっ!憶えてねえじゃねえか!」
志田 朋也。
1年前、まだ獅獣にあたしがいた頃。
仁に送ってもらった時に〈銀のバイク〉で追い回してきた、Breakの男。
「貴方、Breakに居たんじゃないの?」
「おめえ、知らねえのか?Breakはとっくの前に解散してるわ!」
「ああ、そんなことを南がそうさせたいみたいなことを言っていたけど…」
まさか、本当に解散したなんて。
あたしが獅獣を離れている間に、色々とあったらしい。
「それで、どうしてここに?貴方が間違えていないとは思うけど、ここは関東じゃないわ。関西よ、それも大阪の…青山組の事務所がある所」
「別に?観光に来てただけだ。それなのになんだよお前ら、急に捕まえやがって」
「それはお前が急に逃げるからだろ!」
「そんな大勢で追われたら、逃げるに決まってんだろ!」
腕を掴んで引っ張り上げる陽太に、負けじと言い返す志田。
「なんの観光に来てたの?」
「本当は京都に行くつもりだったんだよ。でも、急に運休になったから、繁華街で時間潰してただけだ」
運休って?と聞けば。
人身事故だって、と志田が答えたので、側にいた陽太を宥めて、調べてもらうと。
「…ニュースになってます」
どうやら事実らしい。



