「どういう意味?」
あたしの問いかけに佐々木さんは目蓋を伏せた。
「申し訳ありません、わたくしはその人の顔も名前も分かりません。貴女に、その人、といえば分かるかも知れない。そう思って聞きました」
知らない…?
「どうして…?」
見たことくらい、ありそうな気もするけど。
「わたくしはその、sugarにその人が入っていくところも出ていくところも見たことがありません。いつも、いるところだけを見ていて、白いベールによってシルエット以外に情報がありません」
「瑞樹は?」
「知らないそうです。貴女の側近だった彼さえ、中に入ることは許されなかったとのことで」
では、あたしだけが、知っているの?
「今までは名もわかっていないのに、どうやって聞くのか。先程のように貴女が誤解してしまわないか、もう少し情報を集めてからで良いのではないか。そう思って瑞樹とは言うことは避けようと、決めていました」
それで、か。
ようやく合点がいった。
早く見つけ出す為には情報は多い方がいい。
あたしがすぐに誰か言い当てられるようにと、考えていたと思うと、もうさすがとしか言いようがない。
闇を持つあの世界で生きていたことのあるあたしに、全く悟られずに計画を進めるなんて。
ホンモノだ。
「ですが、どれだけ時間が経っても情報は集まらないので、わたくしが先に漏らしてしまいました」
「じゃあ、瑞樹は知らないのですか?」
はい、と頷く彼を見ながら。
瑞樹にあたしがこの話をしたのなら、きっと驚くに違いないと思わず頬が緩んだ。
「和佳菜様、催促して申し訳ありません。それでも、わたくし達には貴方しかいないのです。なんでもいい、何か覚えていらっしゃいませんか?」
その声で、あたしは再び意識を数年前の花園に戻す。
『マーク!あのね、コスモスを植えてもらったの。本当に綺麗ね!』
『そうだね。和佳菜以上に綺麗なものなんてないけどね』
『ふふ。お世辞が上手なんだから』
『お世辞なんかじゃないよ。
君はいつだって、一番綺麗だ______』
「和佳菜様?」
「…え?」
「何を思い出したのですか?」
「いや、なんでもないの。ただ…」
すごく綺麗で、華やかなsugar。
その中で、マークが笑っていて。
「本当になんでもないのですか?」
「ええ」
「じゃあ、なぜ泣いておられるのですか?」
泣いて、る…?
慌てて目をこすれば。
ポロリと、音もなく涙が零れ落ちた。



