彼は目を細め、半笑い状態で唇を開く。
「へえ、君の彼氏の立場は公平なんよ?均衡が崩れて争いにでもなったらどうすん?責任取れるんか?」
「そんなことくらいで均衡は崩れたりしないわ」
「君はまだまだ甘いわ。そんなんだから、マークから追い出されるんよ」
カッと、手に力が入った。
「…何も知らない人間が、あたしのプライベートに口を出さないでくれる?邪魔しないで」
本気になってしまった。
下手にオーラを出すつもりも無かったの。
だって、まさか、こんなに驚くと思わなかったから。
ただ襟を掴んで少し引き上げただけなのに。
貴方の顔が恐怖で歪んでしまうのは、何故でしょうか。
マークが怖いから?
それとも、こんな二十歳にもならない女の視線が怖いから?
「…っ、相変わらず脅迫が上手いわなあ」
「交渉やめましょうか。千夏ちゃんにはあの若頭に言って別の場所で過ごしてもらいましょ」
にこりと笑みを浮かべて、彼の襟を離した。
「てめえっ…!」
「欲しいものを欲しいと言わないから悪いのよ?」
くすくすと、さもおかしいとでも言うように笑った。
「じゃあね。せいぜい、マークからのお仕置きを受けることね」
その言葉を放った途端に。
黒装束の男たちがぞろぞろと、部屋の中に入ってきた。
まあ、かしらの危機となれば普通はそうなるわよね。
先頭に立った男は玲でも、椎田でもない、知らない男。
彼だけ、スーツを身につけて。
ニヒル口が気持ちの悪い、悪魔のような笑みを浮かべて。
「それ相応の処置を取らせてもらうよ」
そう、なんとも余裕な表情で、だけど目つきは鋭く、そう言った。
「別に、あの人を怒らせるようなことをしなきゃいいけど」
握り締めた銃を使ったことはあるのだろうか。
おそらく、こんな平和な日本で使ったことなどそう多くはない筈だ。
アメリカは自由よ。
貴方達はあの人にも、佐々木さんにもかなわない。
銃口をきらりと光らせる。
殺しても構わない。
いつも死にたいのよ、機会さえ有ればね。
だけどここでは多分、死なないわ、あたし。
「待て…」
ほうらね?
最初から望めば良いものを。



