蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「てめえ、何もんだ」


青山組の前の見張りは思ったよりも少なく、スーツを着た男一人が、仏頂面で立っているだけだった。


「青山 葏忢に遭いにきたの。通してくれない?」


「組長はそんな小娘に会う時間があるほど暇じゃねえんだよ」


となりでくすりと、佐々木さんが笑った。


そうよね、小娘は小娘だけれども、あたし、マーク側の人間だもの。


あたしがマークに一言囁けば、これくらいの組、簡単に潰せてしまう。


日本国内、それも西日本のみが守備範囲の青山なんぞ、マフィアにしたら小さいものだ。


「暇であろうがなかろうが、前会った時に会いたい時直ぐに会ってくれるって言ったのよ?」


「あぁん?そんなこと、組長が言うはずねえだろ。馬鹿にしてんのか?」


語彙力がないのだろうか。


今の部分をどう切り取ったら、組長を馬鹿にしていることに繋がるのか。


頭はよろしくないらしい。


「馬鹿になんてしてないわよ。事実を言ったまでよ」


「だから!それが馬鹿にしてんだよ!いい加減分かれ!」


いや、それが分からないのだ。


どうしようかと、思案していると。


「椎田さん!どうしたんすか?」


男の子が表から走ってくるのが見えた。


(れい)!何してんだ、下がってろ」


「だって椎田さんが困ってそうだったから」


年は13、4位だろうか。


青年というよりは少年という言葉が似合うその子は、キラキラと綺麗な笑みを浮かべた。


「ウチに何か御用ですか?」


「組長に会わせてもらいにきたの」


「失礼ですが、アポ取ってますか?」


アポ…?


アポ、とはなんだろう。


たった2文字で何を表現しているのか。


見かねた佐々木さんがこそりと。


「appointment、の略でございます」


「ああ…」


今の日本人はそんな略し方もするのね。


ついていけないわ。


「いいえ、取ってないわ」


「じゃあお引き取りください」


満面の笑みを浮かべたまま、男の子を言い切る。


「組長は、アポ取ってない人とは会わないんです」


「でも、前に約束して…」


「所詮口約束でしょう」


遮るように、にこりと微笑む。


有無を言わせないその笑顔に。


ああ、そういうことか。



なんだか、急に府に落ちた。


「ここじゃ目立っちゃいますから。そちらにとってもよくないんじゃないんですか?うちに断られるなんて、いい状態じゃないですもん」


その目は笑っているようで、全く笑っていない。


「…手加減なんかするものじゃないわね」


「なんて、おっしゃいましたか?」


彼の言葉を無視して、あたしも綺麗に笑いかけた。


「青山葏忢。いないの?」


いきなり印象を変えたせいだろうか。


冷たい瞳が一瞬、小さく揺れたように見えた。


「だから、組長は…」


「いるか、いないか。YESか、NOか。どうちらかで答えられる問いに、答えとして当てはまってないわよ」


「いねえよ。だから帰れって言っとんの。組長にお前が来たことは言っとくけん」


「あたし、残念ながら時間がないのよ。ご不在のようなら、ここで、でもいいから待たせて頂くわ」


日帰りの予定だしね。


別に誰が来ても佐々木さんがいるからある程度は平気。


「……椎田さん。ここで二人と一緒にいてくださいね」


ああ、やはり。


この子は特別な子だ。


今どんな対応をすればいいのか、キチンと分かっている。


「おい!玲!」


彼は椎田という男の声も聞かずに、家の中へと入っていった。