「和佳菜ちゃんも馬鹿だよね。仁達の前から居なくならなかったら、あたしが入る隙なんてなかっただろうに。和佳菜ちゃんの影響は獅獣でとても大きかったの。その穴は大きくて、でもだからこそ。埋めるためにあたしがいられた。…入るのなんて簡単だった」
それから、キツく唇を噛み締めて、涙を溜めた。
「あと、もうちょっとだったの。仁があたしに傾いてくれてて、もう少し、あと少し時間があれば、落とすことが出来たのに。どうして、どうして帰ってきちゃったの?」
詰め寄る彼女の空気感に押されそう。
だけどその瞳は。
悲しげに揺れている。
「和佳菜ちゃんがいなきゃあたしは上手くいった。全部、全部思い通りになった!和佳菜ちゃんを利用しなくても、いつも通り、任務を完了させて…_______」
「本当に、できた?そんなことを」
彼女の目から涙が溢れた。
きっと出来なかったと思うから。
大切な人のことをだますなんて、とても苦しい筈だ。
多分ずっと苦しんでいたのだろう。
そうではないと涙なんか出ない。
「ごめん……ごめんね、ごめんなさい……!」
彼女の絶叫が。
耳にこだまして、離れてはくれない。
「ほんとは千夏、もう無理だって限界だって思ってたの。仁を騙しても辛いことしかなくて、嫌で。でも、辞められない。…ずっと、苦しかった」
苦しい、苦しいと。
海の中で息をするように。
叫んでいる。
…謝ることは一向に構わないけど、そんなに泣かれると困るものね。
「別にいいわ。昔のことよ」
「…和佳菜ちゃ」
「そこに気にするほど、小さな女じゃないわ。あの時は確かにイラついたけれど、そうは言ったって、もうどうしようもないことじゃない」
終わったことだ。
もうどうにもならないし、どうする気も起きない。
千夏ちゃんのことを恨んでいるか、と聞かれたとしても、既にもうよく分からないから。
「…もういいのよ」
貴女と向き合う。
それが出来た今、貴女に謝罪なんか望んでいない。
ただ、
あたしが聞きたいことはまだあるの。
「だけどあの日、何で仁と2人でいなくなったの?」



