蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「和佳菜ちゃんも馬鹿だよね。仁達の前から居なくならなかったら、あたしが入る隙なんてなかっただろうに。和佳菜ちゃんの影響は獅獣でとても大きかったの。その穴は大きくて、でもだからこそ。埋めるためにあたしがいられた。…入るのなんて簡単だった」


それから、キツく唇を噛み締めて、涙を溜めた。


「あと、もうちょっとだったの。仁があたしに傾いてくれてて、もう少し、あと少し時間があれば、落とすことが出来たのに。どうして、どうして帰ってきちゃったの?」


詰め寄る彼女の空気感に押されそう。


だけどその瞳は。


悲しげに揺れている。


「和佳菜ちゃんがいなきゃあたしは上手くいった。全部、全部思い通りになった!和佳菜ちゃんを利用しなくても、いつも通り、任務を完了させて…_______」


「本当に、できた?そんなことを」


彼女の目から涙が溢れた。


きっと出来なかったと思うから。


大切な人のことをだますなんて、とても苦しい筈だ。


多分ずっと苦しんでいたのだろう。


そうではないと涙なんか出ない。



「ごめん……ごめんね、ごめんなさい……!」


彼女の絶叫が。


耳にこだまして、離れてはくれない。


「ほんとは千夏、もう無理だって限界だって思ってたの。仁を騙しても辛いことしかなくて、嫌で。でも、辞められない。…ずっと、苦しかった」


苦しい、苦しいと。


海の中で息をするように。


叫んでいる。


…謝ることは一向に構わないけど、そんなに泣かれると困るものね。


「別にいいわ。昔のことよ」


「…和佳菜ちゃ」


「そこに気にするほど、小さな女じゃないわ。あの時は確かにイラついたけれど、そうは言ったって、もうどうしようもないことじゃない」


終わったことだ。


もうどうにもならないし、どうする気も起きない。


千夏ちゃんのことを恨んでいるか、と聞かれたとしても、既にもうよく分からないから。


「…もういいのよ」


貴女と向き合う。


それが出来た今、貴女に謝罪なんか望んでいない。




ただ、


あたしが聞きたいことはまだあるの。




「だけどあの日、何で仁と2人でいなくなったの?」