それでも生きることを選んだ千夏ちゃんは、必死で会得したのだと。
「組長もいないことが多かった東本部だけど、気が抜けるわけじゃないし」
東本部?
「待って、千夏ちゃんは、西にいたのではないないの?」
「青山でも、関東の分家に住んでたの。両親が事故で死んでから、どのようないきさつでそうなったかはわかんない。でも、頭に呼ばれて、小4で大阪の本家に戻ることになったの」
それから東本部に行くことはなく、ずっと西にいたとか。
「じゃあ、仁とは…」
彼女は穏やかに待って、と笑って。
「中学生に入ってから、出会ったの。東本部に行く用事があって…その帰りに、走りに遭遇したの」
「走り?」
走りって、走るの?
どこを?いや、仁や綾が全力で走っている姿なんて想像出来ないのだけど。
「ああ、和佳菜ちゃんが来てからはやってないよね。ざっくりいうと、バイクで道を占領するって感じかなあ?」
「見たことがないわ…」
「仁にねだってみるといいよ。…きっとやってくれる」
影のある笑みを浮かべてから、千夏ちゃんはふわり微笑んで、それでね、と言った。
「その走りがね、すっごくかっこよかったの。…一目惚れ、なのかな。しちゃって。初めて、自分の立場とか全部忘れて、仁に会いに行ったの」
「いきなり?」
「いきなり」
「すごい、行動力ね…」
「あたしもそう思う。でも、会いたくて。このひとの側にずっと居たいって思ったら、もう止まらなくてね。最初はウザがられたり、迷惑だって、言われてたんだけど。あたしが、…Break って知ってる?そこに連れ去られちゃった時。助けに来てくれたの、あたしの自業自得なのに」
「千夏ちゃん…」
「…仁は言ってくれたの。お前のお陰で変われたって。お前が居てくれて良かったって」
駄目だ、凄く苦しい。
そんなこと、分かってる。
口にしてはいけないけれど。
だって口にしてしまったら、
もう戻れない……。
にこりと笑う彼女に合わせて笑顔を作る。
これだから嘘は嫌いなんだ。
あたしを偽らなくてはいけないから。
自分を騙さなくてはいけないから。
それでも嘘をつかずにはいられない。
苦しくてしょうがない、痛み。
「千夏は…ずっとそこに居られるって、思ってたの。でも、…組員の1人に仁達といるところを見られちゃって」
「組長に言わないで欲しいなら、居なくなれと、言われたの。…だから、お別れの言葉を言うと、離れ難く思っちゃうから。…なんにも言わないで、居なくなることにしたの」
それからしばらく、ずっと会わないで置いたのだと。
「あたしがいない間に、何があったの?」
彼女は一瞬顔を歪めて、泣きそうな顔をして笑った。
「貴女とまだ仁が一緒にいる時。頭に仁と知り合いなのが密告でバレてしまって、こう言われたの」
『_______東屋 仁を、青山に引き入れろ。できるまで帰ってくるな』



