「…久しぶりねぇ、和佳菜ちゃん」
ベッドの上で横たわる数ヶ月ぶりに会う、千夏ちゃんは、あまり変わっていないように見えた。
隣には綾らしき人物が簡易的な椅子に腰をかけている。
その表情は、暗い上に、下を向いているせいで分からない。
間接照明がぼんやりとした暖かいオレンジ色で、睡魔を誘う。
「久しぶり。千夏ちゃん、綾」
そこで、漸く、綾が顔を上げた。
心無しか、泣きそうに見える。
「…和佳菜、ごめん。色々と」
それだけ、ぽつりと、綾が呟いた。
「なぜ?綾。貴方は何もしていないでしょう」
「いや、…でも」
「家に入れてくれてありがとう」
それだけで充分だった。
何かあったとしても、今はそれを話し合う時ではない。
「うん…、ごめん」
再度謝った彼は、俺は行くからなんかあったら呼んで、と言って部屋を出て行った。
沈黙が流れる。
「何しに来たの。無様な姿を見に来たの?」
最初にそれを破ったのは、千夏ちゃんだった。
「そんなわけないでしょう。今日は、千夏ちゃんのことを教えてもらいに来たの」
「初日にホテルで会った時に、死ぬほど喋ったじゃない」
「それでも、どこか隠しているところがあると思っていたから。あの時喋ったことが全てではないでしょう」
「…それは、あんたも同じでしょ」
やはり分かっていたのか。
目敏い彼女のことだ。
あたしが全て話していないのは、お見通しだったようだ。
「そう。あたしも全ては話していない。貴女とあたしは似てるから、裏の読みあいで疲れたわ」
「じゃ、もう関わらないでよ。あんたと関わるとろくなことがない」
「じゃあ、そのろくなことがなかった人生を教えて」
「今更!あんたに言うことなんかないのよ!」
…危ない。
手元にあったペーパーナイフが耳元を横切る。
「仁に…出会い頭に分厚い本を投げつけるのは、今の姿を見られたくないからでしょう」
「あんたに何が分かる!」
「分からないから、知りたいのに」
「千夏はもうこの世界にいるのは疲れたの!あんたのせいで、ただの駒よ!誰も千夏のことなんか愛してくれない、好きになってくれない。ずっとずっと苦しかった!でも!あんたは、そんな人生じゃないでしょ!」
「…あたしは、たくさんの人に愛して貰った」
「ほらね!そうでしょ?千夏はずっと1人なの!あんたのこと、ちょっと調べただけで、もうやだった。先代の獅獣の人にも愛されて、叔父には溺愛されてたじゃない。その上、仁達にも…。アメリカのマフィアの次期社長とも呼ばれる人にだって、愛されて…そんな人にあたしの気持ちなんて、…あたしの人生なんて!知られてたまるのものか!」
それはそうかもしれない。
あたしは沢山の人に愛されて、“ 側から見れば ”幸せだったのかもしれない。
「…ちょっと調べただけの女が、生意気なことを言っているじゃないわよ」



