車内は静かだった。
音楽ひとつ流れない、緊張感の漂う空気。
緊張せずにはいられなかった。
それでも、悲しみの連鎖は止めなければいけないから。
覚悟、しているから。
「着きました」
菅谷さんが、そう言った。
あたし達が着いたところは、閑静な住宅街の一角だった。
今は真夜中。
周りの家には明かりなどほとんどついておらず、黒塗りの高級車だけが明るく前方を照らす。
「行くぞ」
仁がそう言って、目の前の家を見上げた。
二階の角の部屋だけ、ぼんやりと明かりがついている。
直感的に、あそこだと思った。
「行ってきます」
菅谷さんにそう声をかけてから、あたし達は門を潜った。
とんとん、と仁が玄関のドアをノックをすると、鍵が外れたような音がした。
目で頷いたあたしは仁と共に中に入る。
仁についていくと、思った通り、二階の角の部屋の前へと通された。
「ありがとう、仁。じゃあね」
「いや、待て。お前、喧嘩出来ねえだろ。ついてく」
「要らないわよ。というか、喧嘩出来なきゃ入れないの?」
「この中にいるのは、今までのぶりっ子の千夏じゃねえ。精神的にかなり弱ってる状態だ。正直、何飛んでくるか分かんねえ。俺がこの前来た時は分厚い本が飛んできた」
…分厚い、本。
「来るな、来るなって大惨事だよ。幸い、喧嘩やってた時の反射神経でなんとかなったけど、綾が来た時には、毎回色々飛んでくるらしいぞ。…もう、何が飛んできたかなんて忘れたらしいけど」
「注意していくわ。でも、大丈夫。二人で話したいの」
「んなの、わかってる。けど、中には綾がいるぞ」
「綾にも事情を話すわ」
彼は、しばらく考えてから、はあ…と、ため息をついて、頭を振った。
「…わかった。ここにいるから、なんかあったら、声かけろよ。ここで待ってるから」
「ええ」
コンコン、とノックをした。
「どうぞ」
と聞こえた声は男の人のものだった。



