蒼の花と荒れる野獣Ⅱ


車内は静かだった。


音楽ひとつ流れない、緊張感の漂う空気。


緊張せずにはいられなかった。


それでも、悲しみの連鎖は止めなければいけないから。


覚悟、しているから。


「着きました」


菅谷さんが、そう言った。


あたし達が着いたところは、閑静な住宅街の一角だった。


今は真夜中。


周りの家には明かりなどほとんどついておらず、黒塗りの高級車だけが明るく前方を照らす。


「行くぞ」


仁がそう言って、目の前の家を見上げた。


二階の角の部屋だけ、ぼんやりと明かりがついている。


直感的に、あそこだと思った。


「行ってきます」


菅谷さんにそう声をかけてから、あたし達は門を潜った。







とんとん、と仁が玄関のドアをノックをすると、鍵が外れたような音がした。


目で頷いたあたしは仁と共に中に入る。


仁についていくと、思った通り、二階の角の部屋の前へと通された。


「ありがとう、仁。じゃあね」


「いや、待て。お前、喧嘩出来ねえだろ。ついてく」


「要らないわよ。というか、喧嘩出来なきゃ入れないの?」


「この中にいるのは、今までのぶりっ子の千夏じゃねえ。精神的にかなり弱ってる状態だ。正直、何飛んでくるか分かんねえ。俺がこの前来た時は分厚い本が飛んできた」


…分厚い、本。


「来るな、来るなって大惨事だよ。幸い、喧嘩やってた時の反射神経でなんとかなったけど、綾が来た時には、毎回色々飛んでくるらしいぞ。…もう、何が飛んできたかなんて忘れたらしいけど」


「注意していくわ。でも、大丈夫。二人で話したいの」


「んなの、わかってる。けど、中には綾がいるぞ」


「綾にも事情を話すわ」


彼は、しばらく考えてから、はあ…と、ため息をついて、頭を振った。


「…わかった。ここにいるから、なんかあったら、声かけろよ。ここで待ってるから」


「ええ」


コンコン、とノックをした。


「どうぞ」


と聞こえた声は男の人のものだった。