あたしのお願いに何か特別なものを感じたのか。
その後手術室から出てきた佐々木さんと共に病室にいることが許された。
あやみさんは組に報告に行ってくると言って、病院から出て、ここにはいない。
報告なんて今の時代何にでもできると思うから、きっと他の用事もあるのだろうけど。
真夜中起きてから寝ていないあたしには、どんな用事かなんて考える余裕は無かった。
外の光が柔らかく明るさを伴い始める。
次第にぎんぎんと強くなっていくが、佐々木さんは一向に目覚めない。
「もう麻酔は切れているはずなんだけどね」
佐久間先生は不思議そうに首を捻っていたが。
「まだ起きたくないということなのか。なんにしても今日中には起きると思うが」
特に問題視しているわけでもないようなので、あたしもそのままゆっくりと佐々木さんの目覚めを待った。
「…佐久間先生は、ずっとここで働いているのですか?」
沈黙に耐え切れなくなったあたしは、なんでもない話をしようと言葉をかけた。
「そうだね。もう20年以上かな。…仁のことは産まれた時から知ってるよ」
「長いですね」
「そうだね。銀深会とは長い付き合いなんだよ。だから、千夏以外の女の子を大事にしてる仁なんて初めてみたよ」
「別に、大事されてるわけではないと思いますけど」
佐久間先生は、ははっと笑って。
「謙遜が上手だね。昔の仁は本当に手がつけられない暴れん坊でね。千夏が居ないと、誰かが側にいてやらないと、どうしようもないやつでさ。よく傷を作ってうちに来てたよ」
「なんだか、想像出来ないですね」
「今の仁しか知らない君だから言えるんだよ。めっきり来なくなったと思ったら、君が側にいるって聞いて、一度会ってみたかったんだ」
彼はあたしを正面から見つめ、頭を下げた。
「ありがとう、仁を救ってくれて」
突然のことに面食らって言葉が出てこない。
「…その、頭を上げてください」
やっと、言えた言葉はこれだけ。
それなのに、佐久間先生は顔を上げてくれない。
「君がいなかったら、仁はきっとこんなに優しさを知らなかったよ、きっとね」
「仁は…あたしが居なくても、あたしと出逢わなくても、きっと自分で正解を正しい道を見つけられていたと、思います」
強くて、優しい人だから。
きっとあたしと出逢わなくても、自分にとって大切なものに気づくことが出来ただろう。
「それでも」
それでも。
「あたしは仁と出逢えて、本当に良かったと思っています」
貴方の人生に、そんなに影響が無かったとしても、あたしの人生を変えるには十分だった。
貴方があたしの嫌いなヤクザでも。
あたしは貴方のところに戻れないと知っていても。
それでも、貴方と出逢えた運命、それこそが、あたしを大きく変えてくれたの。
だから、例えもう二度と貴方に会えなくなったとしても。
貴方と出会えたことを決して後悔しない。
いつまでも、ずっと。
ずっと、感謝しかないの。
「そう言えるから、きっと仁は君に惚れたんだろうね」
佐久間先生の言葉の意味はよくわからないけれども。
決して悪い意味ではないと、分かっているから。
「そうだといいですね」
貴方に、無性に逢いたくなった________。
その時。
「んっ……」
あたしのものでもなく、佐久間先生のものでもない声が、個室に静かに響いた。



