「……佐々木さん?」
あやみさんたちに連れてきて貰ったのは、手術室の前だった。
「何しろ矢で撃たれたからね。殺傷能力は多分あいつのことだからないとは思うけど」
「…大丈夫でしょうか?」
「弱気にならないの。和佳菜ちゃんは佐々木さんを守るために一輝のところに行こうとしたんでしょ?」
「なんでそれを」
「ごめんね、あたしたちは背後から回って、一輝を挟み撃ちにするつもりだったの。そこに辿り着く前に、佐々木さんがこんなことになってしまっていて」
背後の気配なんて、感じなかった。
仁に気を取られていたこともあるんだろうけど、やはり流石は裏の世界で活躍する人だ。
気づかれないようにするなど、簡単なのだろう。
「大切な人、なんでしょう?」
あやみさんが笑いかける。
「信じなさい」
マークに心酔しているこの人が、死ぬとは思えないけれども。
どこかで、胸はざわざわと揺れる。
もし、もし、と考えるほど、怖くなる。
それでも、信じて待っているから。
ねえ、早く。
佐々木さん、帰ってきて________________。
空はいつのまにか、明るくなっていた。
夜明けを知らせる野鳥が、かあかあと鳴いている。
手術室のドアが開いて、青い服を纏った男の人が出てくる。
「佐久間先生、どうでしたか?」
椅子から降りたあやみさんが、その人の所へ駆け寄った。
「無事、成功したよ」
それから、彼はあたしを見とめ、柔らかく微笑んだ。
「貴女が、和佳菜さんですね」
まだ自己紹介もしていないのに。
急に言葉が出てこなくなった。
「…何故」
それだけようやく口にすると、彼はそれまた優しく微笑み。
「…若が、大事になさっていると、噂はかねがね」
噂だけで、人の顔までわかる者なのか?
彼はあたしの疑問を汲み取るように続けた。
「前にbeastと化した若を助けてくださったでしょう。その時の映像が回ってまいりました」
「もしかして、1年前の…?」
はい、と笑顔で頷く医者にあたしは崩れ落ちそうになった。
映像なんか撮られていたの?
人は多かったから、そんなこともあり得る気もしたけれども。
それに助けた覚えはない。
あたしの記憶の中では、放っておかなかったというだけだ。
「若をこれからも、よろしくお願いします」
なんて、終いには頭を下げる始末。
「や、やめてください。あの、佐々木さんは今は?」
「麻酔が効いているので、しばらくは起きません。一度ご自宅に戻られて、また後日おいでください」
寝ていないでしょう?
と覗き込まれたけれども。
「迷惑ではないなら、ここにいさせてください」
「でも、体力的には」
「あたし、家に帰ったらしばらくこちらには来られないのです」
昨日は瑞樹が居なかったから外に出られたけれども。
彼が戻っていたら、あたしは再びオリの中だ。
「お願いします」
瑞樹があたしを連れ戻しにくるまでは、どうか。
外の世界をあたしに味合わせてください。



