「約束…ですか?」
そうよ、と神妙な面持ちであやみさんは頷いた。
「具体的なことは分からないけど、うちは当時ほしい情報があって、交渉を持ちかけたら、マーク自身が交渉に現れて、そこで組長は20億を支払うと約束したのよ。…そんな金、うちにはないくせに」
呆れたように、目を細めたあやみさんは、それから自嘲するように笑った。
「まあ、お決まりの通り払えなくてね?マーク様、大変お怒りになっちゃって、代わりに、って」
代わりに…まさか。
「奥様を…?」
無言で頷いたあやみさんに、涙が落ちそうになった。
あたしは泣けない、泣いちゃいけない。
そんな人の、恋人だったのだから。
あたしが彼を止めなければならないから。
「お腹には赤ちゃんもいたのにね」
え…?
「赤ちゃんが、いたのですか?」
「そうよ、もう直ぐ産まれるはずだったの。若頭ができてから随分子供に恵まれなくてね。やっとの2人目だったのよ。でも」
待って、赤ちゃんがいた?
子供を心から愛するあの人が。
もう直ぐ産まれる命を、奪うなんてこと、あるのかしら?
もうすぐ産まれるとなれば、お腹も大きいはず。
そんな子どもが産まれることがよく分かる状態で撃ち殺すかしら?
彼なら、…例え打ったとしても子供は生かすだろう。
母体の急所は外す筈だ。
それに約束も引っかかる。
マークとは色々な約束をしてきたけれども。
破っていたのはいつも向こうで。
厳しかったことなんてそうない。
ホテルで生活していた時だってそう、いつになってもアメリカに帰らせてくれなかった。



