蒼の花と荒れる野獣Ⅱ


「約束…ですか?」


そうよ、と神妙な面持ちであやみさんは頷いた。


「具体的なことは分からないけど、うちは当時ほしい情報があって、交渉を持ちかけたら、マーク自身が交渉に現れて、そこで組長は20億を支払うと約束したのよ。…そんな金、うちにはないくせに」


呆れたように、目を細めたあやみさんは、それから自嘲するように笑った。


「まあ、お決まりの通り払えなくてね?マーク様、大変お怒りになっちゃって、代わりに、って」


代わりに…まさか。


「奥様を…?」


無言で頷いたあやみさんに、涙が落ちそうになった。


あたしは泣けない、泣いちゃいけない。


そんな人の、恋人だったのだから。


あたしが彼を止めなければならないから。


「お腹には赤ちゃんもいたのにね」


え…?


「赤ちゃんが、いたのですか?」


「そうよ、もう直ぐ産まれるはずだったの。若頭ができてから随分子供に恵まれなくてね。やっとの2人目だったのよ。でも」


待って、赤ちゃんがいた?


子供を心から愛するあの人が。


もう直ぐ産まれる命を、奪うなんてこと、あるのかしら?


もうすぐ産まれるとなれば、お腹も大きいはず。


そんな子どもが産まれることがよく分かる状態で撃ち殺すかしら?


彼なら、…例え打ったとしても子供は生かすだろう。


母体の急所は外す筈だ。


それに約束も引っかかる。


マークとは色々な約束をしてきたけれども。


破っていたのはいつも向こうで。


厳しかったことなんてそうない。


ホテルで生活していた時だってそう、いつになってもアメリカに帰らせてくれなかった。