「なにがって、…貴女以外にいる?」
「え、あたしですか?」
あたし、ものじゃないんだけど。
「そうよ。若のお気に入りの貴女以外に、若を宥められる人なんていないわ」
「…もしかして、聞いたのですか?」
1年前、あたしが仁が人を殴っていた現場に自ら首を突っ込んでいった話を。
「聞くも何も、有名な話よ?銀深会でも手がつけられないほどの暴れ馬が。あーんな、大人しく、頭を使うようになるなんて」
どれだけ広まっているのだろう。
正直想像もつかない。
あの場に居なかったはずのあやみさんでさえ知っているのだから、その筋ではかなり有名になっているのだろうな。
そう考えると、少し怖くなった。
野獣、なんて格好いい名前で呼ばれていた仁だけど、大人からしたらただの暴れ馬なのだろう。
「そんな影響あったとは思えないのですけど」
「下手したら、女の人でも容赦なかった人よ?ほんと、不思議よねえ」
聞いているのか、聞いていないのか。
分からないが、彼女は間延びした声を出した。
「ほんと、一輝も早く目を覚まして欲しいわ」
それから、ああ、と言って。
「まだうちの事情話してなかったけど、若からなんか聞いてる?」
「いいえ、何も」
彼女は少し安心したのか、ふうと頬を緩ませて、怖がらせたくないから大体のことしか言わないけど。
そういって、銀深会の内部事情を教えてくれた。
銀深会では、若頭派と、頭派に分裂しているらしい。
親子の仲が悪いと言ったら、そのようなことではないらしいが、ただ周囲がそのように分かれてしまっているそう。
一輝、あたしを見下して笑った彼は、頭派の1人で、頭…組長が大変可愛がっているとか。
「組長の時代はもう終わりました。若頭が指揮をとるべきですよ」
河合さんが落ち着いた声でそう言う。
「あたしだってそう思うわよ。あんなへっぽこな組長より、若頭の方がずっと向いてる」
へっぽこって…酷い言われようだ。
それほどきっと組長の立場がないのだろう。
「組長、奥様が亡くなってから、随分とヨボヨボになりましたからね」
え、奥様?
「亡くなられていたのですか?」
確かにあの会合の時、そのような方の姿は無かったけれども。
「…そうよ。2年前に亡くなられたの。まだ45歳だった」
「どうして…」
「…約束を破ったから」
「え?」
「マークとの約束を組長が破ったから。奥様は、マーク側の人間によって殺された」



