本当にいつの間にか、知らないうちに。
いつからそこにいたのか、決して誰も答えられないくらいひっそりと。
そこに、立っていた。
振り向いた一輝はガクガクと唇を震わせて、目は見開いたまま止まっている。
「…なんで」
辛うじて発したその言葉にニヤリと得意げに笑うと。
「俺にできないことなんかねえよ」
「いつ、から…」
「さあな、人の話なんか聞いてねえから知らないけど」
佐々木さんをチラリと見て、後ろに控えていた男たちに。
「保護しろ」
と命じた。
「ですが…この男は」
「俺の知り合いだけど?ま、ついでに言うなら俺が獅獣の下っ端の頃からお世話になってる大先輩」
今もなお痛そうに顔を歪ませている佐々木さんに。
「すみません、もう大丈夫です」
とだけ声をかけると、なおも運べと命じた。
男達は慌てて、佐々木さんを丁重に運び出していく。
「あの、待って!あたしも行く」
「その格好でか?」
ふと、俯けば、そこにはだらしのないパジャマ姿のあたしがいる。
「それくらい気にしておけ。まったく、全然変わんねえなあ」
頭を強引に撫でて、にかっと、あたしが好きな笑顔を見せた。
「困ります、若頭…」
「誰が困るって?困るのは、連れ去られて困るのはお前だけだろ。第一、今何時だと思ってる?尻拭いに走る俺の台詞なんだけど」
あとで覚えとろよ。
そう低く牽制してから再びあたしを見つめた。
「どうやって…、ここを知ったの?」
「さあな。蛇の道は蛇って言うだろ?」
相変わらず、楽しそうに。
多くは語らないその人をこんなにも長く見つめたのは、久々だった。
「…仁」
名前を呼ぶのだって懐かしい。
「なんだよ」
貴方はいつだって優しい。
「ありがとう」
「約束は守る男なんだよ」
『お前を命かけて護るから』
そうだった。
どんなに過去を許せなくても、その行動の意味がわからなくても。
貴方はあたしが困ると、決まってたすけてくれる。
あたしは誰の言葉も、たくさんの出来事も、整理しきれなくて、今でもこの状況がよく分かっていないけれども。
『約束は守る男なんだよ』
その言葉だけは、信じたいと思った。



