「あたしが、何をしたというのかしら?」


「貴女がここに来たこと自体、悪かったのですよ。貴女がここに来てからマーク側のメンバーがここによく飲みにくるようですね」


あたしが…ここを壊したというの?


「昔はこの一帯を警戒していたようですが、それも緩んでいるようで、近隣の方も大変煩わしく思っています」


あたしが…ここを?


「最近ではここをマークが利用するまでになったじゃあありませんか。これでどこが中立と…」


「それは違います」


佐々木さんが凛とした声で遮る。


「黙って聞いていれば好き勝手なことを言って。和佳菜様を動揺させたとしても、私には事実が分かります。嘘はここでつくものとは思えませんよ」


「…佐々木さん」


彼はそうではないと暗にそう示していた。


その事実に少しホッとした。


「まあ、ここで騒いでいたことは事実です。少々煩かったので、少し成敗させて頂きました」


柔らかな笑みは変わらない一輝。


「貴方…もしかして」


確かに最近はお客様があまり入っていないようだった。


佐々木さんはあたしになにも言わないけれど…。


「マーク側の人間が来ないようにしただけのことですよ」


ニヤリとわらった一輝に心底苛立ちを見せた。


「そんなことをしていいと思っているの?」


「貴女が組長の思うがままに動いてくれれば、もうこんなことはしませんよ」


「思う通り…ですって?」



その時、後ろからうっと呻き声が聞こえ、あたしの方に何かが倒れてきた。


「佐々木さん!」


「油断してはいけませんよ。毒矢は常に俺らの側にあることを忘れないで頂きたい」


倒れた佐々木さんの傷口を確認すると、背中に小さな矢が刺さっていた。


「1度目なら、死は免れるでしょうが、恐らく2度目はないでしょう」


それは次が来たら、佐々木さんは確実に死ぬ、ということ。


「さあ、どうしますか?駆け引きの天才と呼ばれた元交渉人の貴女なら」


どうするかって?


そんなこと、決まっている。



「貴方の望みはなに?」