「失礼します」
お辞儀をして入ったその部屋に入ってすぐに金屏風が飾られていた。
右を見渡せば、大勢の(おそらく組関係の)人が並んでいる。
左を見渡せば、柔らかい顔をして座った組長と、隣に。
見知った顔を見つけた。
もう2度と会うことはないと思っていた相手が。
「これから会合でね。いつもより人が多いんだ。さあさ、座りなさい」
目の前の小さな座布団に座るよう促され、無表情で座りつつ、しくじったなあと思った。
組長と話すことは想定していたけれども、こんな大勢の前でとは。
2人きりが良かった。
そうしたら思考の誘導がしやすいから。
と、思いつつ、まあそんなにうまくことが運ぶわけがない、とも思った。
依然として、佐々木さんの意図が掴めぬままあたしは組長と向き合う。
「たった一人で入ってくるとは、随分と世間知らずなおなごだね」
組長の隣に座るあたしより五つほど年上とみられる男が笑った。
「組長、あたしはある者の使いで参りました」
返事くらいしろよ、と聞こえた気もしたが、気のせいということで片付けた。
「誰の使いだ」
そしてあたしは自分の馬鹿さを呪った。
「佐々木という男です、ご存知ありませんか?」
フルネームを言わなければ、どの佐々木か分からないということを。



