飛行機の遅延。
車の渋滞。
そのせいで到着予定時刻を12時間遅れての到着となった。
「…ただいま」
本当はそんなことを言う資格はどこにもなくて、だけど言いたかった。
目の前の建物を初めて見上げたあの日から、1年経った、今日。
あたしはイギリスから舞い戻り、再びこの国にこの街へと帰ってきた。
日本の9月はまだまだ暑い。
じんわりと背中に汗が滲む中、キャリーバッグを片手にあたしはまたあの日と同じようにこの建物をぼんやりと見上げている。
誰にも帰国は伝えていなかった。
ママは琢磨くらいには伝えた方がいいと言ったけれど、まず琢磨とは未だに連絡さえ取れない。
何度かけても繋がらない電話。
ママも、あたしも心配でならなかったのに、捜索願1つ出していないのは、お祖父様のせいだった。
『あいつも子供じゃない。どこかでうまくやっているんだろう』
ママはこの言葉を聞いた瞬間にコップの水をお祖父様にかけたけど、あたしもしたい気分だった。
だけど、心配をしていないのは、お祖父様だけじゃなくて、琢磨の旧友の昌さんも同様なのだ。
昌さんはどうやら居場所を知っているようで、あたしはしつこく聞いたけれど、取り合ってはくれず。
だから帰国するときに琢磨の様子を確認することをママと約束したのだ。
ああ、言い忘れていたけど。
ママはここにはいない。