「タバコくせえ。お前吸ってんの?」


未来の髪に顔を近づけ、藍は顔をしかめた。


「吸ってない」


カラオケに来ていた美咲の彼氏のマー君と、その友達がタバコを吸っていた。
臭いがうつっていた。


「風呂入ってこいよ」


「なにそれエッローい」


「ふざけんな」

二週間ぶりに会う藍は不機嫌そうだった。
髪を短く切り、少し日焼けをしている。


「怒ってるの?」


「ばーちゃんのご飯。
ついでに未来が元気か様子見てこいって」


藍が指差した先、ダイニングテーブルには大きなタッパーが3つ重ねられていた。


「おでんとコロッケとチャーシュー」


「私が好きなのばっかだ」


藍は黙って立ち上がると、ゲームの電源を切ってコントローラーをテレビボードに片付けた。


「藍」


「ん?」


振り向いた藍は少し背が伸びた気がする。身長はとっくに越されているけど、また少し目線が高くなった。


「あ…ごめん。今日」


「おう」


「紅茶淹れるよ。ママがお客さんにもらったいいやつあるから」


「俺勉強残ってるから」


「そっか」


「またな」


未来も立ち上がって藍を玄関まで送る。


「風呂入れよ」


「うるさいな」


「タバコ臭くねえ時一緒に寝てやる」


「子供じゃないっつーの」


その日初めて、藍と未来は顔を見合わせて笑った。