希夜くんの部屋のドアの前で、深く深呼吸する。
そして──────

コンコンッ

ガチャ

ノックをするとすぐにドアが開かれた。

「よかった。小山さんちゃんと来てくれた」

そうやって薄く笑う希夜くんの髪は、お風呂から出たばかりでまだ濡れている。

いつもよりも倍色っぽい彼に戸惑って視線が合わせられない。

「どうぞ入って、何もない部屋だけど」

希夜くんにそう言われて、遠慮がちに部屋へと入る。

前に一度入った時は、部屋を見回す余裕なんて全然なかったけど。

今はだいぶ落ち着いて見られる。

シンプルで余計なものが何もない部屋って感じで、希夜くんらしいなと思う。

あれ……。

視界に入ったあるものに思わず釘付けになってしまう。

希夜くんのベッドの枕元に置かれた白いクマぬいぐるみ。

このシンプルな部屋にあまりにも不釣り合いで。

「今、似合わないって思った?」

「あっ」

希夜くんがベッドからそのぬいぐるみを持ちあげる。

「こんにちは。クマの西条(さいじょう)くんです」

希夜くんが、ほんの少し声を高くして私にぬいぐるみを見せながらそう言った。
まるで、ぬいぐるみのほうが、私に自己紹介してるみたいに。