「名前、呼ぶだけだよ?」
うぅ。
男の人は嫌いだったからそのせいで関わりを持たなかったために、たかが名前を呼ぶだけでこんなに緊張するなんて。
でも、私が呼ぶまで須永くんは先に進もうとしないし。
しょうがない、緊張なんて忘れてさっさと呼んでしまおう。
意を決して諦めて、浅く、息を吸う。
「……っ、き、希夜くん」
「どんだけ慣れてないの、小山さん。顔まっ赤」
っ?!
顔が赤くなってることを言われて、余計、身体中が熱くなる。
「べ、別にっ、」
それ以上、言葉が出てこない。
恥ずかしさと、こんなことをサラッとこなせない自分への苛立ちでいっぱいになる。
「慣れるまでだよ、もう一回」
「っ、」
「小山さんが早く言ってくれないと、買い物終わらないから」
須永くんは私の気持ちなんておかまいなしにそういう。
何よ……それ。
「……希夜、くん」
「はい、よくできました」
希夜くんは、そう言って私の頭に優しく手を置いて、先へと進んだ。



