「名前、下の名前でいいよ。うちの中じゃみんな須永なわけだし」
「えっ、あ……」
「小山さんが男嫌いなのはわかってるつもりだけど、多分、うちの親もその方がいいと思う」
「……そっか、うん。わかった」
そうだよね。
恵美さんも須永くんのお父さんの寛(ひろし)さんも、同じ須永だし、ややこしいよね。
必要最低限の会話だけをして、あとはふたり無言で歩きながら、目的地のスーパーへと向かう。
「今日の夕飯、ミートスパゲティだって書いてあるけど、小山さん、苦手なものとかない?今のうちに母さんに伝えてた方がいいと思うけど」
スーパーに入ると、カゴとメモを持った須永くんがそう聞いてくれる。
「えっ…と、大丈夫、です」
「そっか。すごいね好き嫌いないの」
「え、そうかな。普通だよ」
「普通じゃないと思うけど」
「須……」
「ん?」
『須永くん』
そう呼ぼうとしたけれど、さっき、下の名前で呼んでって言われたのを思い出して、変に言葉を詰まらせてしまった。



