「おいで」
希夜くんの穏やかな声と同時に、さらに手を引かれて、流れるように隣に座る。
肩と肩との距離がゼロになったかと思えば、フワッと希夜くんのいつもの香りが広がって、目の前に影ができる。
気づけば、お互いの吐息がかかる距離に希夜くんの綺麗な顔があって。
「……っ、」
あまりの至近距離と端麗な顔立ちに、息をするのを忘れそうになる。
「なんかあったよね?元気ない」
希夜くんが、私の少しの変化に気付いてくれた、その事実が、心強い。
だけど、これは私の問題で。
希夜くんの好意に甘えて助けてもらっちゃばかりじゃダメ。
「っ、何にもないよ」
「ほんと?」
「うん」
希夜くんに嘘をつくのは心苦しいけれど、仕方がない。
希夜くんのことが好きだと言う感情に気付いてしまった以上、ますます過去の話はしたくないし。



