「……いや、特に、何かあるわけじゃないんだけど」
フッと目を軽く晒した希夜くん。
「希夜、くん?」
「ごめんね。いつもなら、ふたりでいる時間でしょ。だから、落ち着かなくて。小山さんの顔見ないと眠れそうにないなって思ってさ」
ぎゅっと握る手に優しく力を入れてそういう希夜くんに、ボッと熱が出たみたいに顔が熱くなる。
薄暗くてよかった……。
照明は、外階段の踊り場の非常口のマークと、少し離れたところにある街灯程度。
私の顔が見たくなって……?
そんなこと言われるとはおもっていなくて、言葉がうまく出てこない。
「迷惑だよね、ごめ─────」
「わ、私も、希夜くんに会いたかったから。だから、謝らないで。すっごく、嬉しいからっ」
何度も謝ろうとする希夜くんの声をとっさに制する。
会いたいって思っててそしたらちょうど連絡が来て「顔が見たかった」なんて言われたら、そりゃ気持ち高ぶっちゃう。
「小山さんも、俺に会いたかったの?」
彼の問いに、コクンと頷く。
改めて目と目をちゃんと合わせて答えるのは、恥ずかしい。



