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「小山さん」
っ?!
先生たちに見つからないように細心の注意を払いながら目的地に向かって。
無事に研修棟に着くと、すぐ横の階段から、小声で名前が呼ばれた。
まったくしゃべっていなかったわけではないのに、なんだかすごく久しぶりに話す気がする。
結構重症みたいだ。
「希夜くんっ」
薄暗い外階段で、手招きしてる希夜くんを見つけて、トクンと心臓が跳ねる。
お風呂上がりの湿った髪と、長袖のTシャツにルームパンツの格好。
普段のスウェットと少し違う希夜くんに、キュンとする。
階段に座る彼の前まで行くと、不意に手が伸びてきて、私の手に優しく触れて包み込んだ。
希夜くんが、私をベッドで抱きしめたあの日から、こんな風に触れられたことはなかったから驚きと緊張で、身体がとたんに熱くなる。
「ごめんね、突然こんなところまで呼び出して。大丈夫だった?」
「うん。平気だったよ、何かあった?」
どうして人気のないこんなところに呼び出したのか不思議で。
希夜くんに呼ばれたってだけですごく嬉しいんだけれど。



