「私のことは、「お母様」でいいのよ」

イザナミは、そう言ってどこかへ行ってしまった。最初から最後まで優しげな空気だ。

沙月は体を起こす。豪華な和室だが、見覚えがある。サシャの部屋だ。

「イザナミ様がいたということは……ここはあの世?」

沙月の着ている服も、いつ誰が着替えさせたのか、ジャージから白い着物に変わっていた。

「その通りだ、我が娘よ」

威圧的な声が響き沙月が振り向くと、そこには豪華な和服のイザナギがいた。

「今すぐ着替えろ…。今日は忙しい。裁判があるからな」

イザナギがそう言った刹那、沙月は地味な着物を着た侍女に囲まれる。

「サシャ様、こちらのお着物にお召し替えください!」

着替えさせようとする侍女に、「ちょっと待って!」と沙月は叫ぶ。そして背を向けているイザナギに訊ねた。

「裁判って誰のですか?」

イザナギは振り返る。その目は、微かに笑っていた。

「決まっているだろう…。ツキヤーーー宮野葉月のだ」

沙月の目が大きく見開かれた。