「……お別れに来たわけじゃないんだよ」

「え?」

サシャはツキヤを抱きしめると、そのまま井戸の中へ落ちていく。見守り人が何かを叫んだが、サシャは久しぶりのツキヤの匂いに喜びを感じていた。

「サシャ様!何を…」

驚くツキヤに、サシャは「私も転生するのよ」と笑いかけた。

この井戸に入れば、何者も転生することができる。妖怪でも、人間でも、そして神でも。

神が転生できないというのは、転生することが許されないというだけだ。サシャは今、その禁忌の罪を犯したのだ。

「……来世で、また愛し合いましょう。今度は自由に」

光が、抱きしめ合ったままの二人を包む。サシャの意識はゆっくりと遠のいていった。



沙月は、ゆっくりと目を開ける。見慣れない天井があった。沙月の家のものでも、葉月の実家のものでもない。

沙月の横に、心配げな目をする着物の女性がいた。この人は、イザナミだ。

「気がついたのね。気分はどう?」

イザナミは優しく微笑む。沙月は「イザナミ様…」と呟いた。日本を創った神の一人。イザナギの妻でサシャの母だ。