黙って家を抜け出したのだから、両親や兄弟、大臣や侍女たちに怒られることは確定だ。だからこそ、今を楽しもうと少女は空を見上げる。

「……空を見るの、久しぶりだなぁ」

少女の呟きは、少し強く吹いた風にかき消される。神社に生えている大きなクスノキがざわりと揺れた。

少女が安堵のため息をついていると、その両耳が近くで争いごとが起きていることを知らせる。

「……ェ!ふざけんな!」

「……コイツ……ですし、金をたくさん……!」

「や、やめてください!」

少女はわずかに聞こえた会話から、ただの喧嘩ではないと判断し、刀を持ってその場所へ向かう。誰が聞いてもこれは強盗事件だと思うはずだ。

事件はどうやら神社のすぐ近くで起きているようだ。強盗事件など巡り合ったことなどない。少女はゴクリと唾を飲む。

現場では、一人の弱そうな男性が六人の大柄な男たちに囲まれていた。男性の荷物は奪われ、仲間の一人が物色している。

その卑劣な行為に少女は腹を立て、ぎゅっと力強く愛刀を握りしめた。