「沙月と、もっといろんな場所をデートしたい。二人きりで旅行してみたい。キス以上のことをしてみたい」

沙月の耳には、不思議なことに葉月の声しか聞こえてこない。葉月の目はとても優しく、沙月はまた泣いてしまう。沙月は、葉月のそんな優しさを好きになったのだ。

「いつか、お前と結婚したい。子どもだって早く作りてえ。俺と沙月によく似たかわいい男の子と女の子。それで、幸せに暮らしていきたいんだ」

沙月の肩に葉月は手を乗せる。その手は力強く、沙月は葉月を見つめることしかできない。

「お前は、このまま俺と引き離されていいのかよ!?本当にそれで幸せなのかよ!?俺は……俺は……お前と生きたいんだ。俺のわがまま聞けよ!」

まっすぐ沙月を見ていた葉月は、ゆっくりとうつむいていく。そして、そのまま静かに泣き始めた。

時が、また動き出す。沙月の耳に音が戻ってきた。

「サシャ」

優しく声をかけられ、沙月はゆっくりと後ろを振り返る。イザナミが優しい目で沙月を見つめていた。