「………なんだ、それ……」


覚えとけ、って…………


「……忘れられるわけないじゃん、アホ………」


こちとらファーストキスだったんだぞ……………。


そう呟いて、水滴で濡れたグラスを握りしめる。

ごくん。

アイスと混じりあったメロンソーダ。

甘く、口の中でとろけていく。



ヴー、ヴー。

唸るスマホを取り出すと、ディスプレイに表示された名前に息を飲む。


『真山:来週の土曜日、空けといて』



私は、そのLINEにすぐ返信をすることが出来ず、トロトロ歩きながら帰宅した。


「真山が、わからない……」


帰宅後、堀さんから送られてきたデータに目を通す。


「全然頭が回らないんですけど……」


その夜、真山と堀さんから数件メールとLINEが送られてきたけど。

私はスマホの電源を落として、眠りについた。


「………目が覚めたら、来週の日曜日になってればいいのに……」



25年間、恋も青春もしたことのなかった私の穏やかな日々は、


あの日を境に、何かが変わり始めていた。