木田だったか石田だったか、とにかくあのパフェの先輩の誘いに乗ったのは、ものすごく機嫌が悪かったためだ。
元輝に会えていない。
忙しいとは言っても、時間を作ろうと思えば作れるはずなのに、元輝はそうしないのだ。
家にいるとわかっている日に千沙乃が押し掛けると、来ちゃったなら仕方ない、と部屋に上げてはくれるけれど、それだけ。

昨日、やはり千沙乃の方からかけた電話で、本当は別に恋人がいるんじゃないかと問いつめた。

『いないよ。証明しようがないけど』

「じゃあ明日は会える?」

『明日は記録』

「本当に?」

『それは証明できる。中継あるから見てみたら?』

言われた通り見たネット中継では、確かに向かい合う棋士ふたりの間に元輝が座っていた。
面白くもなんともない対局の間、元輝は真剣にオシゴトに臨んでいる。
きっと今千沙乃のことなんて思い出しもしないのだろう。
元輝が大事なのは将棋で、千沙乃は邪魔な存在なのだ。

諦めの悪い土田の何度目かの誘いに乗って、古いカフェで勧められるままにパフェを頼んだ。
講義もダイエットも恋愛も、何もかも全部お休みだ。

「やっと神永さんを連れて来られたなあ」

「付き合いませんよ」

「何も言ってないのに」

「今後も言わないでください」

注文したアイスティーパフェには、季節はずれのスイカがふんだんに盛られていた。
あまりスイカが好きではない千沙乃は、苦行にも等しい思いで食べ切ったけれど、パフェの底に注がれたアイスティーまでスイカの味がしていて、最後までおいしく思えなかった。

いつの間に、やけパフェがやけ酒になったのか。
夕方五時を過ぎるとお酒も扱う店だったせいで、そのまま飲み会へとなだれこんでいた。

「梅酒ロック!」

「神永さん、せめてサワーにしたら?」

「炭酸で薄めたくないです」

「お持ち帰りされちゃうよ?」

「彼氏に迎えにきてもらいますから」

迎えになど来ない彼氏に何度も電話をかけた。

「迎えに来ないと、山田さんにお持ち帰りされちゃうよー」

「……川田です」

元輝は当然出るはずなく、むなしい留守電と絡み酒のメッセージばかりが電波を通っていく。