それでも、咲紀は床に尻餅をついたままあたしを睨み上げて来た。


「なによその目は」


咲紀はこのくらいのことじゃめげない。


それはわかっていた。


だからこそ、あたしたちは更にエスカレートしなければならない。


「生意気なんだけど」


あたしはそう言い、咲紀の髪の毛を踏みつけた。


艶やかな黒髪はあたしの上履によって汚れて行く。


咲紀は痛みに顔をしかめた。


「このネタ全然おもしろくないし」


小高美春(コダカ ミハル)がそう言って、明日香からメモ帳を受け取った。


「やめて……」


小説家志望にとってネタ帳は死ぬほど大切なものだ。


安易に人に触れられるのも、あたしは嫌だった。