「え……?」


そんなこと初耳だった。


高校に入学してから気になる男子がいたことだって、今まで聞いたことがない。


いや、そんなことを話す暇さえなく、あたしたちはここまできていたのだ。


「死んじゃったんだって! 陽太君は!」


美文が渚の感情を逆なでするように叫ぶ。


「うるさい! 黙れ!!」


元々気性が荒い渚は黙っていない。


涙を流しながらも美文に怒鳴り返し始める。


「なによ! 昨日あたしにあんなことするから、あんたが好きだった陽太君が死んだんだ!」


「関係ないじゃん! あんたこそ死ねばいいのに! 昨日の内に殺せばよかった!」


怒鳴り合いながら立ち上がり、掴みかかる2人。


あたしは慌てて「命令以外で相手を傷つけたら、退学になる!!」と、怒鳴った。


昨日の大志を見ていれば理解できるはずだ。


命令以外の争いがいかに残酷な結果になるかを。


あたしの言葉に2人はにらみ合ったまま両手を下におろした。


その様子にホッと胸をなで下ろす。


けれど、その後2人は一言も口をきかず、間に挟まれたあたしは気まずい空気のまま、時間が流れて行ったのだった。