「もしもし。」

「すごい勢いで飛び出て行ったけど、大丈夫!?」

「あー。コウか。うん。なつみに会えたんだけど、止められなかった。」

「会ったの!?…今は見守ってあげましょう。きっとまた連絡くれるわよ!」

「うん。じゃ、また後で。」

 あんな顔を見てしまったら、引き止める事なんてできない。
 またあいつの笑顔を見られるかな。

 少し落ち着きを取り戻し、しばらくの間、座っていた。

 ーーーーーー

「なつ、これで嫌がらせもなくなるね!よかったよ!」

「うん。」

 カフェを出た後、私達はすぐに電車に乗った。

 本当にこれで良かったのか。
 今の私には分からない。
 でも逃げたくて仕方なかった。
 今のこの環境をどうしても変えたかった。
 やりたい事も沢山ある。

 お母さんと最後に行った海の事、言葉を思い出した。


 〝後悔しない人生を送ってほしい。〟

 そんな風に言っていた。
 きっと空の上で見てくれている。
 私がずっと悲しい顔、辛そうな顔をしていても何も変わらないんだ。






 あの家から離れるのは、とてもつらい。
 思い出が沢山つまったあの場所。
 また戻れる日が来るのかな。

 涙が出そうになるのを必死に隠して、ボーッと外を眺めるしか出来なかった。
 周りの話す声も笑い声も、今のなつみには何も聞こえなかった。


 窓の外は、真っ暗で、都会の夜景が見え始めていた。

 ここからやり直したい。

 誰にも届く事のない。心の声。

 私は心の中でそう思っていた。