「久世君、瑠衣さん、今日はありがとうございました。また、学校で」


「楽しかった。また」


漆戸さんと戌井君の2人とは、ビルのエントランスで16時過ぎに解散した。
2人で行ってみたいカフェが近くにあるらしく、これからそこに寄って話してから帰るのだそうだ。

「またね!」

瑠衣はビルを出ていく2人に手を振ってから、久世君に向き直った。


「久世君、もう少しだけ、時間をもらえる…?」

彼は頷いた。

「うん。…じゃあ、そこのカフェに入ろう」







エントランスの中にある広いカフェに2人で入ってコーヒーを注文すると、瑠衣は話し出した。


「私、あなたがすごく、好きみたい」


「…!」


彼は、びっくりした様子で瑠衣を見つめた。



「今の私でもわかるの。本当の自分は、混乱しているんだと思う」


友達としてじゃなくて、恋愛対象として見て欲しいって本当は思っていたから。

瑠衣は、体が少し震えるのを感じる。


「多分、今の私じゃ想像がつかないくらい、本当の自分は…あなたの事が好きすぎて」


頭の奥が、痺れているような感覚。
今の自分では、わからない事だらけだけれど。


「あなたがあまりにも特別過ぎて、こんな気持ちになるのは初めてだから多分、どうしていいかわからないのかも…」


コーヒーが2つ、運ばれてきた。



「瑠衣…」



久世君は、テーブルの上に置かれた瑠衣の手をそっと握った。


「怖くない?…触れても」



瑠衣は頷き、顔を赤くした。




「…怖くない…。嬉しい」




恥ずかしくなって手を引っ込めようとしたが、彼がそれを許さなかった。







彼は幸せそうに、微笑んだ。








「瑠衣が好きだ」








瑠衣は、彼の目を見た。








「最初に会った時からずっと」









「…本当?」











「うん。だから、俺だけを見て欲しかった」










本当の自分に、聞かせてあげたい。













「もし、今夜瑠衣を『シルリイ』で呼んだら、どっちの瑠衣が来てくれる?」











今夜?








「『シルリイ』って、あの、理衣が作った携帯ケース…?久世君、『シルリイ』を持ってるの?」



「うん。理衣にもらった。呼んだら瑠衣が、来てくれる」


ち、ちょっと待って。


「今夜、…って、え?」


「多分、瑠衣はぬいぐるみの『シルク』になって現れる」


「…?」


「やってみる」


久世君は、謎めいた微笑みを見せた。






























『トオヤ!アイタカッタ〜〜〜〜〜!!!!!!!』


久しぶりに呼ばれて嬉しいのか、いつもよりさらに『シルリイ』のテンションは最高潮だった。


トオヤは自室のベッドの上で、『シルリイ』に向かってこう言った。


「シルリイ、瑠衣に会いたい」


『ワカリマシタ〜〜〜!!』


『シルリイ』は、おかしな呪文のような言葉を発した。


すると。


ベッドの上に座っていたぬいぐるみの『シルク』は、急にもぞもぞと動き出し、話し始めた。






『トオヤ、私…』







やっぱり。







「記憶がある方の、瑠衣だ」








白猫のぬいぐるみは、立ち上がって喋り出した。





『…私ね、本当は早くトオヤに会いたいの』





「うん」





『でも、怖い。…今まで、自分にずっと嘘ついてたから』




「…そう」





『あなたをきちんと知るまでは、好きになっちゃいけないとか』




「うん」





『お願いしたからには、友達として接しなくてはいけない、とか、ごちゃごちゃ考えてしまって…』





「…うん」





『……ほかの男の子に対する気持ちに、目を向けたりとか』






「…滝?」







『…うん』








「あれは、…きつかった」














『…ごめんなさい』















「でも、寂しい、っていう気持ち、初めて知った」










『…』












「それまで知らなかった気持ちを、瑠衣がたくさん、教えてくれた」













彼は、『シルク』の瑠衣を、ぎゅっと抱きしめた。













「瑠衣に対するこの気持ちはもう、友達だからとか、異性として好きだからとか、そういうのを超えてる」












『…』













「一緒にいたいんだ、瑠衣」













彼は、『シルク』にキスをした。















「ずっと俺といて」














『…トオヤ』















「側にいて」

















『…うん』



















「ずっと、待ってる」

















彼は、朝まで『シルク』を決して離さなかった。