目が覚めると、ふかふかの広いベッドの上だった。





上を見ると、一面の星空が見える。



「…?」





ここは、…ガラスドーム?











自分が寝ていた場所は、なんと部屋の中ではなかった。













ここは薔薇の温室のようであり、どこかの王宮の中にある庭園の一部のようでもある。






色とりどりの薔薇が、きちんと管理された状態で、美しく咲き誇っている。












何故、薔薇庭園の中心にベッドがあるのか、さっぱり理解できないが。












星空はまぶしく、ただ美しく、瑠衣を見下ろしている。








今の時間は、真夜中なのだろうか。


自分の手のひらを確認し、また愕然とする。

また自分は、ぬいぐるみ『シルク』になってしまっている。




ふと見ると、
トオヤが自分を抱きしめたまま、すやすやと眠っている。





彼の体温が、温かい。







そして、とても気持ちいい。








トオヤ。






ありがとう。











あと、もう少しだけ、
あなたと一緒に眠っていたい。




















あなたの、優しい腕の中で。
























朝。

明るい日差しが眩しくて、目が覚める。




トオヤはすでにベッドの中で起きていたようである。長い睫毛越しに、少し薄茶色がかった美しい瞳が、こちらをじっと見つめていた。



彼の滑らかな、透き通るような肌に、
ぬいぐるみのこの手で、ちょっとだけ触れてみる。






柔らかい…。








「…起きたの?瑠衣」



「…わっ!」





び!!!…びっくりした。



動かないから、目を開けたまま寝てるのかと思った。


…そんなわけないか。



「起きた。…トオヤ、ここはどこ?」





「撮影所」






「さつえい…?」



「父親の仕事の関係で、いくつかこういう場所がある。昨日の夜遅くまでここで仕事していて、そのまま寝たみたい」




「何の撮影をしていたの?」







トオヤはこちらを見つめたまま、微笑んだ。





「今回は、ドレス」






そういえば。
雅が、トオヤはプロだと言っていたっけ。






時々学校を休むのは、この仕事のせいなのだろうか。

聞いてみようか。






「あなたは、プロのデザイナーなの?」










「うん。まだ修行中だけど」










「…どうして今まで、教えてくれなかったの?」










「まだ半人前だし。ずっと、迷ってたから」













「?」
















「何を作るかを」














「そうなの…」













「答えを出す必要は、無い気がしてきた」














「…」















「瑠衣に見てもらいたいものを、作る」










「…!」












「作りたい時に、作りたいだけ作る」

















「何を作るかは、それほど重要じゃ無い」











……。











「瑠衣が起きたら、また話す」








トオヤは一瞬、『シルク』の中の瑠衣に、呼びかけているような表情を見せた。









「瑠衣、俺と一緒にいて」











トオヤは、ぎゅっと『シルク』の瑠衣を抱きしめた。











「好きなんだ。瑠衣が」











トオヤ。











どうすればいい。











何か、言うべきなの…?











「返事はまだ、しなくていいから」











ありがとう。











「うん」











「学校、一緒に行こう」














「え?この姿で?」


















「うん。だって、本当の瑠衣はずっと眠りっぱなしだし」













「…どのくらい?」


















「あの事件から、2週間。瑠衣は、病院に入院したまま、目を覚まさない」








2週間?!










「俺は瑠衣に会いたくて、『シルリイ』に頼んで、呼んでもらった」






「本当の瑠衣に、早く会いたい」