「ま、待って!裏切るも何も仕方なかったのよ…アイツに脅されてやっただけなのよ!!」


初めて死への恐怖を見せた女は喚いた。



「こっちは最初から騙されてた訳か…」



落胆と怒りを静かに燃え上がらせる男に、女は尚も必死で訴えた。



「でも私はただの使い捨てで何も……そうよ、捨てられたのよ!…貴方は前に話してくれたわよね。子供の頃に捨てられた子犬を見つけて…でも家では飼えないから諦めるしかなくて、悲しくて苦しくてどうしていいか分からなかったって。もうあんな思いは二度とごめんだって言ってたじゃない!私も…ただの捨て犬なのよ…お願い!!」



「てめぇ、黙って聞いてりゃ都合のいい事ばかりぬかしやがって!」


周りに居た男のうちの一人が声を上げた。


「黙れ。」



静かにカミソリの様な鋭さで制すと、男はゆっくりと立ち上がり銃を下ろした。どこか遠くを見るような、何の表情も読み取れない。



生きながらにして死んだ、魚の目だ。