「ごめんなさい!遅くなっちゃった」
真由子が手提げ袋を三つ持って、ようやく買い物から家族のもとに戻ってきた。
「もぉ!ママ遅すぎ」
新太がごねた。
「ごめんね新太」
「お腹が減ったー!」
「そうね、ここのレストランで食べましょうか」
「やったぁ!」
「おい、それでいいのか?」
「帰って支度する手間暇考えたら安いものよー」
「荷物持つよ」
「ありがとうあなた。助かるー」
「じゃあ行こう」
「パパ、先行ってくる!」
新太が待ちきれず走り出す。
「こけるなよー」
「早く来てよねー」
レストランは同じフロアーで、休憩コーナーから一分くらい歩いた場所にあった。
新太がサンプルのショーケースをじっと見ている。こちらに気づく素振りもないようだ。
「新太決まった?」
「姉ちゃん!」
やっと気づいた。
「うん。カレーにする!」
「じゃ、入ろう」
「うん!」
新太とエミがレストランの中に入っていった。その後を恵蔵と真由子が付いていく。
「あなたは何が食べたい?」
「んー、醤油ラーメンにするかな」
「私もそれがいいかなぁ」
「じゃ、店員呼ぶか」

無事四人は注文し、待っていた。
「しっかし、あのゲーム激ムズだったよなぁ。スピードに付いていけんかった」
「まだ一回しかプレイしてないんだし、仕方ないんじゃない」
「姉ちゃん、一回でクリアしたじゃんか」
「たまたまよぉ」
「エミちゃん、ゲームやったの?」
真由子が驚いた顔で割り込んだ。
「ああ。しかも世界初クリアだって。俺も驚いたよ」
恵蔵が説明する。
「一回だけのつもりでやらせたのは確かだが、三十分以上出てこなかった時は心配したよ」
「テヘヘ」
「そんな才能があったなんてね。私も知らなかった」
真由子が感心しながらエミの顔を見て言った。
「あたしもよくわかんないんだよ。気がつけば何もかも知ってたって感じでさ。感覚のままにやってたら、最後まで行けちゃったって感じ」
「エミは超能力でも使えるの?」
「んなわけないじゃん。使えるもんならとっくに有効活用してるよ」
「そりゃそうだわね」
「うんうん」
そうこうしているうちに注文の品が次々とテーブルに運ばれてきた。待ちきれず新太は先に食べ始めている。
「で、このキラキラが出てきたってわけ」
赤いカードを出して見せた。
「何それ?」
「クリア認定証みたい。何回かは無料でプレイできるんだって」
「いいじゃないのー」
「好きかどうかもわかんないのに」
「俺も欲しい!」
「新太もそのうち取れる。一緒に頑張ろう」
「おう!」


わずか十六才の少女がVD-masterを世界で初めてクリアした事実は、その日のうちに世界中に知れ渡った。日本でも夜のニュースで報道され、注目されるようになった。
幸い個人情報が漏れる事はなく、その日は無事エミも就寝することができた。

今回の出来事が、今後のエミの人生を大きく変えていく事になるとは、この時まだ知るよしもなかったのである。