ベアトリスは口を押さえられたまま、目の前の状況に悲痛の叫びをこもらせた。

 このままではヴィンセントはパトリックに殺されてしまう。

 二人を助けたいがために、近づいてきたコールに救いの眼差しを投げかける。

 そして自分がどうすべきか悟っていた。

「さて、ベアトリス。さっきは邪魔が入ったが、今度こそライフクリスタルを頂く。もう抵抗するなよ」

 ベアトリスは体の力を抜きあっさりと大人しくなる。

 マーサは自分は必要ないと押さえていた手を離し、コールの邪魔にならないように少し離れた場所に移動した。

「なんだちゃんと言うことを聞けるじゃないか。いい子だ」

「お願い、パトリックを元に戻して。そして二人には手を出さないって約束して。そしたらライフクリスタルあなたにあげてもいい」

「取引きか。いいだろう。最後の願いくらい聞いてやろう(と一応言っておこう)」

「ベアトリス! そいつが約束なんか守るはずがない。俺のことはいいから、早く逃げるんだ」

 ヴィンセントはパトリックを抑えながら必死に叫ぶ。

「もう逃げても無駄なのは私がよく一番知ってる。コールからは逃げられない」

 ベアトリスは目を閉じた。

 コールは再びベアトリスの胸に手をかざして光を吸い取る。

 光が徐々に集まりだし形を形成し出した。

 ベアトリスの意識が遠のき始める。

「ベアトリス! くそっ! パトリックいい加減に目を覚ませ、ベアトリスが死んじまうぞ!」

 ヴィンセントは一か八かに賭けた。

 パトリックの首根っこを押さえつけて持ち上げる。

 パトリックは息ができなくなり苦しさで足をバタバタさせていた。

 死の淵を彷徨うほどに窒息しかけていたとき、背中から影が三体浮き上がりそうになってきた。

 パトリックが先に死ぬか、影が先に出るか、ヴィンセントの手も震え出す。

 パトリックの顔は真っ青で危険な状態となり、影はとうとう見切って三体ともパトリックの体から飛び出した。

 ヴィンセントはすぐにパトリックから手を離し、三体の影を切り刻んだ。

 パトリックは床によつんばになって、何度も苦しそうに咳き込んで喘いでいる。

「パトリック生きてるか」

「ああ、生きてるよ。僕に何をしたんだ」

「説明は後だ。ベアトリスが危ない」

 二人がベアトリスを見たとき、ベアトリスは伐採した木のごとく床に倒れこんだ。

 そしてコールの手には光り輝く丸みを帯びた透明な石が握られていた。

 それを手にしながらコールは大声で笑っていた。

「ベアトリス!」

 ヴィンセントもパトリックも悲痛な叫び声を上げた。