時は5月に入り、初夏を通り過ごした暑さがやってきた。

 そして学校ではプロムの話題が後を絶たなくなった。

 相手が既に決まっているものはワクワク、ドキドキと気持ちが浮かれ、まだ決まってないものはハラハラと焦りが出てくる。

 諦めているものは、アルバイトがあるからとわざとバタバタと忙しさを演じた。

 相手がいれば、仕事など入れないというものである。

 この時期、相手がいないものは誘って貰いやすく友達に噂を広めて貰う。

 例えば、「友達の友達が言ってたけど、あの子があなたに興味があるみたいでプロム一緒に行きたいって言ってたのを聞いた」とかという言い方をする。

 この友達の友達が言ってたというところがキーポイントなのである。

 これだけ離れた間柄ならそれは噂らしく聞こえるというものだ。

 本当は本人がそう言ってくれと言っても。

 その噂が故意で行われていてもそれは皆見て見ぬフリ。

 方法はどうであれとにかく相手を見つけるためにみんな必死だった。

 これが結構効果があり、それを聞いた相手は電話をして誘いやすくなるという。

 学校は至るところでそんな意図的な噂が飛び交っていた。

 ベアトリスは本来なら参加しないはずだったが、パトリックとの約束で、急遽参加する事になり、すでにドレスも全ての準備が整っていた。

 しかし、あまり乗り気ではなく、周りが騒いでいても見てみぬふりをしていた。

 話す相手もいないこともあるが、元々人ごみに出るのが苦手だった。

 そんなところにドレスアップして行くのは気が進まない。

 しかしパトリックを誘ってしまった手前、取り消すわけにもいかず、不安の気持ちを抱いたまま本番を迎えようとしていた。