教室に入り、戻っていないヴィンセントの席を横目に、ベアトリスは自分の席についた。

 先ほどの出来事が憂鬱の種となり、それに気をとられてぼーっとしていた。

 ふと視線をずらせば今度はジェニファーが鬱陶しいと突き刺す挑戦的な態度を投げかけ、気がさらに重くなり深いため息が一つ洩れた。

 コールは席に座りジェニファーに仕掛けた影に何かを期待しながらその様子を見ていたが、ジェニファーは睨むだけで行動を起こさない。

 じれったいと苛立ち、コールの足がガタガタと落ち着きをなくしていた。

 ──もどかしい。さっさと殺ればいいのに。

 コールは突然立ち上がり、ベアトリスの席に近寄ると、彼女の教科書を掴んでそれをジェニファーのいる方向に投げた。

「何をするの!」

 ベアトリスはコールに驚きと腹立ちの入り混じった嫌悪感を露にしたが、体が大きい相手には怖くてそれ以上刃向かうこともできず、仕方なく黙って拾いにいった。

 成り行きを楽しもうとニヤッと含み笑いを顔に浮かべ、コールは腕を組んでの高見の見物をしている。

 だがベアトリスがジェニファーに接近したとき、ジェニファーが胸を押さえ込み前かがみになったのを見て、コールは眉間に思いっきり皺を寄せた。

 ベアトリスは本を拾い、何もなかったように席に戻る。

 コールが再びジェニファーに視線を移せば、息は荒いがジェニファーは平常に戻っていた。

 ──一体どういうことだ。ヴィンセントも同じような態度を取っていた。

 コールはまじまじとベアトリスを訝しげに睨み、彼女に近づいた。

 ベアトリスは怯えきり、顔を思いっきり逸らして無視を決め込んだ。

 コールがベアトリスの机に手を置き威圧感を与えると、アンバーが突然間に入ってきた。

「ちょっとやめなさいよ」

「なんだよ、お前」

 コールは呆気に取られてたが、それ以上にベアトリスの方が驚き、口を大きく開けていた。

 アンバーが自分を庇うなんてありえない。

 はっとしたとき、慌てて口を閉じた。

 コールはクラスの注目を浴び、遣り難くなったと、まずは引いて自分の席に戻っていった。

 ベアトリスは、アンバーに『ありがとう』と恐る恐るお礼を言ったが、アンバーはやはり普段と変わらない。

「あなたを助けようと思ってやったんじゃない。アイツが許せないだけよ。誤解しないで」

「えっ?」

 ベアトリスは益々訳がわからず、キョトンと意識が一瞬飛んでしまう。

 アンバーはコールに挑むような目を向け、自分の席に戻ろうとすると、側を通る彼女の腕をコールは掴んだ。

 アンバーはドキッとして振り返り、顔を赤くすると同時に、負けてたまるかと益々睨みを利かす。

「お前、俺に刃向かえばどうなるかわかってんじゃなかったのか」

「あんたの脅しなんて怖くないわよ。あんたこそ私を舐めないでよね」

 手を振り払い果敢な態度で席に着いた。

 コールは退屈な高校生活の中で、少しは面白いとばかり、アンバーを鼻で一笑いした。

 こういう女はコールは嫌いではなかった。

 アンバーは席につくともう一度、ちらりとコールを振り返る。

 コールはその時、ベアトリスの方を見ていた。

 アンバーは苛立ってふんと前を向いた。