ベアトリスにすぐに気がつくが、近づくこともできずに無言で席についた。

 だが側にポールがいるのが非常に気になり、落ちつかずそわそわしていた。

 ベアトリスもヴィンセントに気がつき、視線を投げかける。

 側に行きたい気持ちを抑え、体に力を込めている。

 二人の様子を見ていたコールは首を傾げた。

 ──なんだ、ヴィンセントの奴、この子を無視してるじゃないか。事故に遭ったというのに、心配する声もかけないのはおかしい。なぜだ。

「なあ、ヴィンセントと喧嘩でもしてるのか?」

 コールが聞くと、ベアトリスは首を横に振り、教科書を突然開き話を逸らそうとした。

 あまりヴィンセントのことについて聞かれたくない態度を取ったようにみえたので、コールもまた面食らった。

 ──なんだこいつら。全く訳がわからないぜ。

 それからコールは二人を見ては様子を探っていた。

 声を掛ける事も、近寄ることもしない二人に疑問がどんどん湧いてくる。

 だが、コールがベアトリスの側で話をすると、ヴィンセントは気になるのかたまにチラチラと見ていることに気がつき、口元が自然に上向いた。

 一つからかってやろうと、昼休みヴィンセントの目の前でベアトリスを引っ張り、あまり人が来ない校舎の裏へ連れて行った。

「あ、あの私に何か用事でもあるの?」

 ベアトリスは少し怯えながらも、困惑している。

 コールは必ずヴィンセントがどこかで見ていると思い、アクションを起こした。

「ちょっと、実験でもしようかなと思ってさ」

 ベアトリスがキョトンとしていると、コールはじりじりとベアトリスに近づいた。

 大きな体が迫ってくるので、ベアトリスは無意識に後ずさっていく。

 そして体がトンと校舎の壁に当たると、もう後ろには動けず、壁にのけぞるように突っ立っていた。

 コールはベアトリスの腕を無理やり掴んだ。

「痛い、離して。やめて」

 ベアトリスは戦慄して、顔を青ざめていた。

「ほら、もっと叫ぶんだ。そんな声じゃ聞こえないぜ」

 不気味に笑う邪悪な表情に、ベアトリスは恐ろしすぎて声が出なくなっていた。