「おっと、変な感情をもって、ダークライトの力でパトリックを殺すなよ。そんなことするんだったら、正々堂々とパトリックと勝負してベアトリスを手に入れるがいい。だが、お前には不利な条件が揃いすぎているけどね」

 ヴィンセントの正気は埋もれようとしていた。

 また感情の渦がうねりを上げて暴れている。

 ヴィンセントは必死に耐えながらハアハアと呼吸が荒くなると、目の色がじわりと赤褐色を帯び出した。

「ヴィンセント、このままではお前は感情を吐き出してしまいそうだ。そんなことされては私も困る。この辺一体が爆発して死者でも出たら、私は責任はとりたくないからね。どうだろう、お詫びと言っちゃなんだが、一度だけベアトリスと過ごせるように手助けをしよう。あのシールドがあっても近づけるようにしてやろう」

 ブラムはヴィンセントの目の前にクリスタルの小瓶を出した。

 ひし形を形取りトップに尖った蓋がついている。

 中の液体がダイヤモンドの輝きのように見る角度を変えるとキラキラと光を発していた。

 その光を見たヴィンセントの瞳は徐々に元の色に戻っていった。

 落ち着きを取り戻し、ヴィンセントはその小瓶に釘付けになった。

「これはライトソルーションで作ったポーションだ。これを飲めば、ダークライトの気配を隠し、お前はシールドからはじかれない。ベアトリスに思う存分近づけて、触れることもできる」

 ヴィンセントはその小瓶を戸惑いの目で眺めていた。

「どうした、いらないのか」

 ブラムの言葉にはっとして、ヴィンセントはおどおどとそれに手を伸ばし掴んだ。

「但し、使い方は、必ず朝日を浴びて飲むこと。そして効き目は日没までとなっている。ダークライトのお前が一度それを使用すると、次回からはどんなにお前に与えても、二度と効き目がなくなる。たった一度きりのチャンスだ。よく考えて使うんだな。それじゃ、リチャードも居ないことだし、また出直すとしよう」

 ブラムは含み笑いを浮かべながら消えていった。

 先ほど見た映像がヴィンセントの記憶に焼き付いてしまった。必死に逃れようと救いを求めて力強くポーションの小瓶を握りしめる。

 期待する欲望の炎が点火する。しかしチャンスは一度だけ──。

 ヴィンセントはブラムにもてあそばれているような気分にさせられた。弱みを握られ弄られる悔しさがこみ上げながらも、目の前の欲望を満たしてくれるポーションに素直に尻尾を振る自分がいた。

「俺も落ちぶれたものだ」

 プライドも捨て、なりふり構わずにポーションの煌く光に蝕まれていくようだった。