コールは加速をつけ、風そのものになっていた。

 だが突然危険を察知して急ブレーキをかけたように町の一角で止まった。

「これは、ダークライトのテリトリー。リチャードか! くそっ! 迂闊に近寄れない。しかし……なるほどそういうことか。リチャードに俺の動きを封じさせるための罠か。一度ならず二度までも俺をバカにしやがって」

 コールの煮えくる怒りはもう少しで正気を失わせるところだった。

 噴火しそうなほどの怒りを抱きながら、踵を翻す。

 ここでは暴れることもできない苛立ちが脳天までふっ飛ばしそうに、顔を恐ろしいほどに歪めて元来た道を戻っていった。

「作戦を立てなければならない。必ずこの礼はさせてもらう」

 コールのホワイトライトに対する執着は何倍にも膨れ上がった。


 ベアトリスは髪をタオルで挟みながら、念入りに水分をとっていた。先ほど見た黒い影をまだ気にしていた。

「パトリックを疑う訳ではないけれど、どうも引っかかる」

 ベアトリスはバスルームから出てパトリックの部屋に向かった。

 明かりがドアの隙間から洩れている。

 そしていびきが聞こえてきた。

「やだ、電気つけたまま寝てるじゃない。やっぱりさっきのはパトリックじゃなかったんだ。自分の見間違いか。疑って悪かったかも」

 ベアトリスはそっとドアを開けた。

 覗きをしているようで後ろめたかったが、電気を消すために仕方がないと、顔を引き攣らせて中を覗いた。

 パトリックは着替えもせずに、ベッドの上に大の字になっていた。そのベッドの隣のスタンドが赤々と電気がついたままだった。

 音を立てまいとそっと部屋に入り込み、パトリックの寝てる姿を見ないように背を向けて、スタンドのつまみに手を伸ばした。

 それを回せば電気が消えるはずだった。