ベアトリスは勢いよく出るお湯を頭から受け、黒い紙、青白い炎、燃えるアメリアの映像を思い出していた。

 夢で見たことを鮮明に思い出せることが、ベアトリスには不思議だった。

 かといって、こんなことが現実に起こることもありえないと否定してしまう。

 現にアメリアは何の問題もなくピンピンしていたし、やけどの跡も全くなかった。

「もう、一体なんなのよ」

 シャンプーを取ろうと、手が無意識にいつもあるところを触ろうとするが、かすって手ごたえが得られない。

「あっ、そうだ。切れてたから新しいのを昨晩のうちにアメリアにお願いするはずだったのに、忘れてた。アメリア、シャンプーとって」

 シャワーカーテンの端から顔を出し何度も叫ぶ。

 だが仕事に出かけたアメリアは答えてくれるはずはなかった。

 ただでさえ時間がないのにと焦り、ベタベタとぬれたまま、タ オルだけを巻いてバスルームの戸棚を空けてその辺を探す。

 だがシャンプーは見つからない。

 仕方がなく台所に向かい、食器洗い用洗剤を少量手に取った。

 あわ立つものならなんとかなるだろうと、安易にそれで頭を洗ってみた。

 しかしそれは髪には適してなかった。

 後悔している暇もなく、このままでは学校に遅れてしまう。

 ゆっくり髪を乾かすこともできず、アメリアが用意してくれたテーブルに並べられた朝食も食べずに、作ってくれた弁当も忘れ、最悪のコンディションで学校にかけこんだ。

「遅刻だ!」

 幸いにもギリギリ学校に間に合ったが、慌てて飛び込んで教室に入ったベアトリスを見たクラスの数名の女子がクスクスと笑った。

「よくあんな格好で来られるわね」

 誰かが呟いた。

 これ見よがしに直接言いに来る者もいた。

「ねぇ、ベアトリス、今日のあんたの髪、最悪ね。笑える。あっ、そうそう、ジェニファーは今日休みなんだって。風邪気味だそうよ。残念ね。いつも三人で仲がいいのにね。今日はお一人? フフフ」

 意地悪く、性格のきついアンバーだった。

 言うことだけいうと、大きくウエーブがかかった肩までの金髪を当てつけるようにすくい上げ、ざまあみろと嬉しそうに笑って去っていった。