それから再び水道設備のフェンスを乗り越えた私たちは、やっと屋上の『いつもの場所』に戻ってきた。
 いつの間にかもう5時間目の授業は始まっている。


「まだ顔色悪いな。保健室で休むか?」


 先生が私の顔を覗き込む。それから


「あ…なぁ?」


とやにわに訊ねた。


「お前、クラスと名前は?」


 流石に担任に言い付けられる…
 そこから家に…

 そして…


 私は俯いて、

「…2年4組、青海、唯」

と小さく答えた。


「へぇ。お前青海って言うんだ?」

「……」

「4組か。じゃあ、担任の先生に言っとくよ。

 青海が非常階段で具合悪そうにしてたんで保健室連れてきました、って」

「!!」

「なんか不都合?」


 私はぷるぷると首を振った。


「だからもうあんな真似はしないで。何かあったら俺に相談する。いいな?」


 先生は小指を立てて右手を差し出す。


「約束」


 私はおずおずと先生の小指に自分のそれを伸ばす。

 が、絡めるのを躊躇って手が止まる。


 すると、

「ほら!」

と先生の方から小指を絡め、ぐいと引っ張られた。


「あっ!」

「指切りげんまん、嘘吐いたら~…んー…

 なぁ?嘘吐いたら、何してもらおっか?」

「…へ?」

「まぁ青海嘘吐かないと思うし、そん時までに考えとくか」


 先生は悪戯っ子みたいににやっと笑う。


「!」

 意外と可愛い表情をすることに不意を打たれた。