5月7日、16時。
2年5組の『青色』の海斗は、旧視聴覚室に現れた。

「行くよ、マナ」
彼は私の手を取って、走り出した。

岩時神社。本殿でも櫟の木でも無い。
手水舎で禊を済ませ、拝殿に並んで立つ。

賽銭を入れ、鈴を鳴らし、二礼、二拍手、一礼。

手を合わせて何かを願う、真剣な横顔。

『青色』の海斗は、どんな願いを持っているのだろう。

海斗はこちらを見ずに、聞いてきた。

「君は何も願わないの?神様だから?」

私は、ため息をついた。

「私は神ではない。ヒジリ神に仕える霊獣」

「霊獣?」

「そう。不死鳥。私は、願わない」

「何だか、カッコいいね」

何がカッコいいものか。大切な人の心をバラバラに焼いたというのに。
自分の力を、心底忌々しく感じてしまう。

「でも、安心して、マナ」

海斗は、清々しい表情で微笑んだ。

「多分、俺、1つになれる」

私は、耳を疑った。

「どうして?」

「俺たち全員、願いが一緒だから」

「それって…」

「君と、ずっと一緒にいたい」

海斗は微笑んだ。

「君が、好きなんだ」

光が、溢れた。

色が、たくさん弧を描く。

軽やかな鈴の音と、ひんやりとした風。
しっとりと濡れた、木々の香り。
いつか彼が飲んだ、霊水の清らかな味。

私がいつか見たあなたの色は、こんなに圧倒的だっただろうか。

虹の中にいるみたい。


「私も、あなたが好き」


私は、彼に駆け寄って強く抱きしめた。


彼の心の中を旅してみたが、どうやらヒジリ様に帰って来いと言われているようだ。

一旦は、戻るとしようか。

何かが、始まる気がするから。