彼は、少しずつ話し出した。


「7年間」


いつしかベッドの上に二人、向かい合わせで座っていた。


彼の涙はとっくに乾いていたが、私は涙が止まらないままだ。


「俺だけは、現実を1人で生き抜いた」


他の心はどこかへ行ってしまった。何が起こっても、誰にも相談は出来ない。


何もかも、1人で抱えてきた。


「途方もなく孤独で」


「うん」


「どうしようもなく空しくて」


「うん」


「心の中の水分は蒸発したみたいに、いつも乾ききっていて」


「うん」


「お前さっきから、『うん』しか言わないな」


「うん」


ダメだ。また涙が零れてしまう。

こんな事を考えてはいけないが、きちんと彼が話してくれるようになった事が、嬉しい。



「そんな中を、手探りで生きてきた」


その場所は暗闇。


光の中で生きる、闇。


「この乾きに殺されそうになる自分に、孤独に負けてしまう自分に、ただただ怒りだけが湧いた」


彼は私の目をもう一度見つめ、静かにこう言った。


「怒りの気持ちだけが、俺をこの世に繋ぎ止めてくれた」


驚いた事に、彼は私の頭を優しく撫でた。


「俺は、お前を憎んでない」


そして、私をそっと抱きしめた。


「7年前」


「お前に初めて恋してしまったから、俺はバラバラになったんだ」



あまりにも強すぎる力で。





私の涙は、どれだけ零れるの。




涙はピンク色の真珠に変わって、そこら中に落ちていく。



輝く真珠達は、この乾いた暗い部屋を、明るく可愛らしく、照らし出した。



「あなたの願いは?『赤色』の海斗」


彼は、初めて笑った。



「蘇りたい」


「自分の世界を、裏返して、変えて、もう一度深く味わってみたい」



私は、彼にこう言った。



「じゃあ、目を閉じて」




「?」



「キスしてあげる」



大人しく目を閉じた彼の、乾いた唇にそっと口付けた。


何度も、何度も、自分から。