琴葉の想いとは裏腹に、雄大は申し訳なさそうに呟く。

「俺が早瀬設計事務所の副社長だから恨んでる?」

「え?」

「琴葉のご両親が亡くなった事故に関係しているから。だから…?」

思いもよらない言葉に、琴葉は一瞬言葉を失った。まさかそのことを雄大が知っているとは思わなかったからだ。
それに、琴葉が雄大を恨んでいるだなんてとんでもないことだ。
琴葉は思い切り首を横に振った。

「違いますよ。」

「じゃあ…。」

「早瀬さん、うちのパン屋どう思います?」

質問の意味がわからなくて、雄大は首を傾げる。

「どういうこと?」

「えっと、見た目とか印象とか。」

minamiの見た目や印象。
雄大は店内を改めてぐるりと見回した。

「暖かみがあってお客さんのことを考えて作られているデザインかな。段差がないとか、出っ張ったところもないし。店内の視覚効果も広く見えるようになっていて考えられているよね。それに、中の動線も無駄がなくて素晴らしいと思う。」

雄大が率直な意見を述べると、琴葉は満面の笑みになって飛び跳ねんばかりの勢いで言う。

「ですよね!私もそう思います。このお店、早瀬設計事務所さんがデザインしたんですよ。」

「え?だけどうちは個人物件は扱ってないんだけど。」

「綾菜さんもそう仰ってましたけど、そうなんですか?でも書類を確認したので間違いないですよ。すごいご縁ですよね。」

早瀬設計事務所が個人物件を取り扱った話など、雄大は聞いたことがない。
にわかに信じられないが、琴葉を疑うこともできなくて、雄大は困惑した。
琴葉はそんな雄大の手を優しく取ると諭すように言う。

「私は両親が残してくれたこのパン屋をこれからも守っていきたいんです。だから、大好きな人には迷惑をかけたくないんですよ。」

それは琴葉の精一杯な想いだった。